第6章 口溶けショコラ 【呪術廻戦 七海建人vs五条悟】
「断って。今すぐ、ナナミンに『最強が泣いて暴れるから無理』って連絡して」
「そんな子供みたいなこと言えません。もう決まったことですから」
そう言い残して、は業務に戻ってしまった。
一人残された五条の周りだけ、気温がさらに数度下がったようだった。
面白くない、これっぽっちも面白くない。
五条はその足で、七海のもとへと突撃した。
「ナナミン! ちょっと話があるんだけど!」
扉を乱暴に開けた五条に対し、七海は視線すら上げずに書類をめくった。
「……五条さん。ノックくらいしてください。それと、14日の件ならお断りしますよ」
「話が早いね! だったら話は簡単だ、との約束、キャンセルしてよ。彼女は僕とデートする予定なんだから」
「予定ではなく、あなたの願望でしょう。私は一週間前から彼女に確認を取り、正式に承諾を得ています。ビジネスにおいてもプライベートにおいても、先約を優先するのが筋です」
七海は眼鏡のブリッジを押し上げ、冷徹な視線を五条に向けた。
「大体、あなたは彼女を独占しすぎだ。彼女はあなたの所有物ではない。適度な距離感というものを学びなさい」
「なーに言ってんの。を補助監督に誘ったのも、今まで一番近くで見守ってきたのも僕。いわば僕が育てたようなもんでしょ? 七海は後からひょいっと現れて、いいとこ取りしすぎじゃない?」
「『育てた』? 傲慢ですね。彼女は自らの意志で今の居場所を築いたんです。私はそれを尊重し、対等なパートナーとして接しているだけだ」
二人の間に火花が散った。
五条はデスクに身を乗り出し、七海を威圧するように笑った。
「へぇ、対等ね。じゃあさ、その『対等なパートナー』に、バレンタイン当日、男として意識させるような店を予約したわけ?」
「……それはあなたに関係のないことです」
「ほら、否定しない! 下心あんじゃん!」
「あなたこそ、彼女をいつまでも私物化するのは、教育者としてどうなんです」
結局、一歩も引かない二人の言い合いは一時間以上続いたが、決着はつかなかった。
冷え切った廊下を歩きながら、五条は盛大に舌打ちをした。
「……あーあ、本当に面白くない。絶対当日、二人の邪魔しに行ってやるんだから」
最強の術師の執念深い呟きが、寒空の中に消えていった。