第2章 しゃけ大根に溶ける貴方の心 【鬼滅の刃 冨岡義勇】
義勇はの頬を撫で、慈しむように口づけを落とした。
その接吻は、遊郭で強引に奪ったあの夜のものとは違い、深く、清らかな誓いに満ちていた。
「……俺がいなくなっても、この子が俺の代わりにお前を守るだろう」
「……何をおっしゃるのですか。義勇さんがいてくださる間は、私が義勇さんを守るんです。……一生分の鮭大根、まだ半分も作っていませんよ?」
が涙を堪えて笑うと、義勇もまた、穏やかな微笑みを返した。
「ああ、そうだったな。……ならば、少しでも長く食べられるように、俺も努力しよう」
義勇はのお腹に再び耳を当て、まだ見ぬ我が子の鼓動を聴こうとする。
残された刻が砂時計のように零れ落ちていくとしても、今、この瞬間、二人の間には確かな愛が満ちていた。
「……愛している、。……俺を選んでくれて、ありがとう」
「私もです、義勇さん。……ずっと、ずっと愛しています」
庭では夜風に揺れる葉の音が、祝福の拍手のように響いていた。
それは、短い命を燃やし尽くす男と、その魂を永遠に語り継ぐことを決めた女の、あまりに美しく、切ない夜だった。
義勇が二十五年の天寿を全うし、静かに息を引き取ってから、数年の月日が流れた。
かつての水柱の屋敷。
その庭には、今も変わらずが手入れを続ける花々が咲き誇り、池の面には春の陽光がキラキラと跳ねている。
「母さん! 見て、これ!」
元気な声と共に駆け寄ってきたのは、
義勇の面影を色濃く残す、黒髪で瞳の澄んだ少年だった。
その手には、不器用ながらも一生懸命に折られた紙の小舟が握られている。
「……あら、上手にできたわね」
は少年の頭を優しく撫でた。
その子は、笑った時の口元や、真っ直ぐな瞳が驚くほど彼に似ていた。
「父さんは、どんな人だったの?」
二人は縁側に座り、夫が好きだった鮭大根が煮える香りに包まれながら、遠い空を見上げた。
「お父さんはね……とても不器用で、口下手で。でも、誰よりも心が優しくて、強い人だったのよ」
「……僕みたいに、鮭大根が大好きだったんでしょ?」
「ええ、そうよ。美味しそうに食べる貴方の顔を見ていると、時々、お父さんが帰ってきたのかと思っちゃうくらい」
は、胸元にずっと下げている御守りにそっと触れた。