第2章 しゃけ大根に溶ける貴方の心 【鬼滅の刃 冨岡義勇】
あの日、彼が最期に遺した言葉は、「ありがとう」という感謝と、「幸せになれ」という祈りだった。
「……お父さんは、私に世界で一番素敵な宝物を遺してくれたわ。……貴方という、光をね」
は立ち上がり、少年の手を引いて、庭の奥にある小さなお墓へと歩み寄った。
そこには、いつも彼が好きだった季節の花が供えられている。
「義勇さん。……私たちの子はこんなに大きくなりましたよ」
墓石に向かって語りかけるの横顔は、悲しみに沈んでいるわけではなかった。
共に過ごした時間は短かった。
けれど、あの遊郭での衝撃的な再会から始まり、愛し合い、睦み合い、命を繋いだあの日々は、の魂に永遠の刻印として刻まれている。
「父さん、僕、頑張るよ! 母さんのことは、僕が守るから!」
小さな義勇が胸を張って宣言すると、ふわりと、どこからか優しい風が吹き抜けた。
それは、かつての水柱が愛おしそうに二人の髪を撫でたような、そんな穏やかな風だった。
「……ふふ。心強いわね。……さあ、帰りましょう。お父さんの分も、たくさん食べなきゃね」
は少年の手を繋ぎ、温かな湯気が待つ家へと歩き出す。
愛した人はもういない。
けれど、彼の愛はの心の中に、そして隣を歩く少年の命の中に、脈々と受け継がれている。
空はどこまでも青く、高く。
不器用な男と、献身的な女が紡いだ愛の物語は、こうして静かに、けれど力強く、次の世代へと繋がれていくーー。
【鮭大根に溶ける貴方の心 完】