第2章 しゃけ大根に溶ける貴方の心 【鬼滅の刃 冨岡義勇】
蝶屋敷の一室に、柔らかな春の陽光が差し込んでいた。
その静謐を破るのは、規則正しい寝息と、時折漏れる衣擦れの音だけ。
は義勇の左手を両手で包み込むように握りしめ、彼の眠る顔をじっと見つめていた。
あの日、血塗れで運ばれてきた義勇の姿を見た時、の心臓は止まるかと思った。
失われた右腕、全身を覆う包帯。
けれど、弱々しくも刻まれる鼓動が、彼が「生」を諦めなかった証だった。
「……っ、ふ……」
不意に、繋いだ手に力がこもる。
義勇の睫毛が震え、深い海のような瞳がゆっくりと開かれた。
「……、」
「…………義勇、さ、ん…?」
「……。……泣くな。俺は、ここにいる」
掠れた声。
けれど間違いなく、彼女が愛した男の声だった。
は堰を切ったように涙を溢れさせ、彼の胸元にそっと顔を寄せた。
傷に障らぬよう、けれど彼の存在を確かめるように。
「……よかった……。生きて、帰ってきてくださって……本当に……!」
義勇は残された左腕を、の背中に回した。
彼女の体温、髪の香り、震える肩。
それらすべてが、地獄のような戦場から自分を引き戻してくれたのだと、義勇は確信した。
「……約束したからな。……お前の鮭大根を、一生食べると」
「っ、はい……! はい……!」
「……すまない。……怖がらせて、すまなかった……」
義勇の目からも、一筋の涙が零れ落ち、の髪に吸い込まれた。
寡黙な彼が、声を殺して泣いていた。
仲間を失った悲しみと、それでも、この温かな腕の中に帰ってこれたことへの、震えるような安堵。
二人はいつまでも、互いの涙を分かち合うように抱き合い続けた。