第2章 しゃけ大根に溶ける貴方の心 【鬼滅の刃 冨岡義勇】
夜明けの光が、瓦礫の山となった戦場を白々と照らし出す。
長く、あまりに長い夜がようやく終わった。
義勇は、折れた日輪刀を杖にして、かろうじて立っていた。
全身の骨は軋み、左腕の感覚はとうにない。
肺は焼けるように熱く、一呼吸ごとに鋭い痛みが走る。
周囲からは、生き残った隊士たちの慟哭や歓喜の声が聞こえてくる。
だが、義勇の意識はすでに、霞の向こう側へと引き寄せられていた。
「……終わったのか」
掠れた声がこぼれる。
すべてを出し尽くした。
仲間たちの命、そして託された想い。
それらすべてを背負い、ようやくここまで辿り着いた。
ふと、冷たい風が頬を撫でる。
その微かな風の中に、義勇は幻を見た。
家の立ち上る湯気、そして、自分を「義勇さん」と呼んで駆け寄ってくるの、柔らかな温もり。
(……ああ。……帰らなくては)
彼女が待っている。
俺がいなければ、彼女は一人で泣いてしまう。
美味しい鮭大根を作って、冷めないように火を入れ直しながら、ずっと……。
「…………」
その名を唇に乗せた瞬間、糸が切れたように視界が暗転した。
折れた刀が手から滑り落ち、義勇の体はゆっくりと地面へ崩れ落ちる。
「水柱様っ!」
遠のいていく意識の端で、誰かが自分の名を呼ぶ声がした。
だが、義勇の心はすでに、彼女の待つ平穏な場所へと、一足先に帰り始めていた。
暗闇に落ちる直前、彼の口元には、かつてないほど穏やかで、不器用な微笑みが浮かんでいた。