• テキストサイズ

夜の秘め事【裏夢の短編集】【R18】

第2章 しゃけ大根に溶ける貴方の心 【鬼滅の刃 冨岡義勇】


夜明けの光が、瓦礫の山となった戦場を白々と照らし出す。
長く、あまりに長い夜がようやく終わった。
義勇は、折れた日輪刀を杖にして、かろうじて立っていた。
全身の骨は軋み、左腕の感覚はとうにない。
肺は焼けるように熱く、一呼吸ごとに鋭い痛みが走る。
周囲からは、生き残った隊士たちの慟哭や歓喜の声が聞こえてくる。
だが、義勇の意識はすでに、霞の向こう側へと引き寄せられていた。

「……終わったのか」

掠れた声がこぼれる。
すべてを出し尽くした。
仲間たちの命、そして託された想い。
それらすべてを背負い、ようやくここまで辿り着いた。
ふと、冷たい風が頬を撫でる。
その微かな風の中に、義勇は幻を見た。

家の立ち上る湯気、そして、自分を「義勇さん」と呼んで駆け寄ってくるの、柔らかな温もり。

(……ああ。……帰らなくては)

彼女が待っている。
俺がいなければ、彼女は一人で泣いてしまう。
美味しい鮭大根を作って、冷めないように火を入れ直しながら、ずっと……。

「…………」

その名を唇に乗せた瞬間、糸が切れたように視界が暗転した。
折れた刀が手から滑り落ち、義勇の体はゆっくりと地面へ崩れ落ちる。

「水柱様っ!」

遠のいていく意識の端で、誰かが自分の名を呼ぶ声がした。
だが、義勇の心はすでに、彼女の待つ平穏な場所へと、一足先に帰り始めていた。
暗闇に落ちる直前、彼の口元には、かつてないほど穏やかで、不器用な微笑みが浮かんでいた。



/ 270ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp