第2章 しゃけ大根に溶ける貴方の心 【鬼滅の刃 冨岡義勇】
「たとえ、心が折れそうになっても。私が、あの人を一生支えます。……美味しい鮭大根を、一生作り続けます」
「……あいつは、幸せ者だな」
天狗の面の奥で、鱗滝が微かに笑ったような気がした。
遠い戦場では、今も刃がぶつかり合い、血が流れているだろう。
だが、ここには、確かに彼を待ち続ける愛がある。
は窓の外、彼が戦っているであろう方角の空を見上げた。
「……義勇さん。……待っています。……必ず、私の元へ帰ってきてください」
その祈りは、夜風に乗って、愛する人の元へと届くかのように、静かに、けれど強く、闇夜に溶けていった。
無限城の荒廃した広間で、上弦の参・猗窩座の体が塵となって消えていく。
その凄絶な死闘の余韻の中、義勇は折れた日輪刀を杖代わりに、辛うじて体を支えていた。
肩で荒い息を吐きながら、義勇は傍らで倒れ込む炭治郎に視線を向ける。
「……炭治郎。動けるか」
「……はぁ、はぁ……っ、はい。義勇、さん……傷が、ひどい……」
炭治郎は朦朧とする意識の中で、義勇の左腕が深く抉られているのを見た。
かつてないほど疲弊し、いつ倒れてもおかしくないはずの義勇。
だが、その瞳には、かつての空虚な絶望ではなく、揺るぎない「生」への意志が宿っていた。
「炭治郎。俺は……こんなところでは死ねない」
「え……?」
「待っている者がいる。……俺の帰りを信じて、鮭大根を作って待っている者が……いるんだ」
義勇の脳裏をよぎるのは、自分の背中を見送るの涙を堪えた笑顔だった。
『必ず、帰ってきてください。義勇さん』
その声が、耳の奥で鮮明に響く。
「……そうです、ね。……さんも、鱗滝さんも……みんな、待っています。帰りましょう、絶対に。二人で……皆で」
炭治郎が震える手で義勇の腕を掴む。
義勇はわずかに頷き、血の混じった息を吐き出すと、再び刀を握り直した。
「ああ。……約束したんだ。……俺は、必ず生きて帰る」
たとえこの身がボロボロになろうとも、彼女の温かな手に触れるまでは。
義勇は前を見据え、無惨という元凶を断つべく、重い足取りで再び一歩を踏み出した。