第2章 しゃけ大根に溶ける貴方の心 【鬼滅の刃 冨岡義勇】
吉原での上弦の鬼との死闘から、数日が過ぎた。
戦場となった街は瓦礫の山となり、音柱・宇髄天元は、左目と左手を失うという苛烈な代償を払いながらも、命を繋ぎ止めた。
産屋敷邸の庭先、引退を決め、治療を終えたばかりの宇髄が、木陰で休んでいると、そこへ一人の男が歩み寄ってきた。
水柱・冨岡義勇。
かつてなら、周囲を寄せ付けない氷のような冷気を纏って現れたであろうその男は、今はどこか、雪解けの春を思わせる穏やかな静寂を漂わせていた。
「派手な傷跡だな」
義勇が足を止め、宇髄の包帯に巻かれた姿を静かに見つめる。
「……あぁ? 冨岡か。わざわざ俺の引退を拝みに来たか? 地味な嫌味なら間に合ってるぜ」
宇髄は片目で義勇を睨んだが、すぐにニヤリと不敵に笑った。
「……いや。お前が生きているのは、重畳だ」
「はっ、相変わらず言葉が足りねぇな。……それより、お前、そのツラなんだ? 前より毒気が抜けて、随分と『人間』らしい顔をしてやがるじゃねぇか」
宇髄の指摘に、義勇は否定もせず、ただ視線を遠くへ向けた。
「……そうか」
「『そうか』じゃねぇよ。隠の連中も噂してたぜ。最近の水柱様は、どこか空気が柔らかくなったってなぁ。……よほど大事に囲い込んでやがるらしいな?」
「……囲い込んではいない。俺が、支えられているだけだ」
義勇の口から自然に漏れた言葉に、宇髄は「けっ」と大袈裟に肩をすくめた。
「独り占めはほどほどにしろよ…あの夜、俺の駒を強引に奪っていった時はどうなることかと思ったが……。今のそのツラを見る限り、あの娘の選択は間違ってなかったってわけだ」
宇髄は残された右手で、無造作に義勇の肩を叩いた。