第2章 しゃけ大根に溶ける貴方の心 【鬼滅の刃 冨岡義勇】
「……お断り、いたします」
「……何?」
義勇の声から、温度が消えた。
「私は、宇髄様と約束したのです。この任務を全うすると。……鬼に苦しめられる人々を、そして戦い続ける冨岡様を、隠として……一人の人間として、後ろからお守りしたいのです」
「……そのために、こんな場所に身を置くというのか。男に媚を売り、命を危険に晒して」
「これくらいしか、私にはできないから!……中途半端に逃げ出すことは、柱の皆様への不敬にあたります。……ですから、今夜は、お帰りください」
は顔を伏せ、絞り出すように言った。
心とは裏腹の拒絶。
義勇を想うからこその決意だった。
沈黙が、部屋を支配する。
次の瞬間、畳が擦れる鋭い音が響いた。
「っ……!? 冨岡、様……っ」
抗う間もなかった。
義勇は彼女の手首を掴むと、背後の布団へと彼女を押し倒した。
重厚な振袖が乱れ、結い直したばかりの髪が畳に散らばる。
「……帰れ、だと? 俺に、お前をここに残して帰れと言うのか」
上から見下ろす義勇の瞳は、これまでに見たことがないほど暗く、激しい怒りに燃えていた。
いつも冷静な水柱の仮面が、音を立てて崩れていく。
「い、痛いです、冨岡様……放して……」
「放さない。……宇髄との約束がそんなに大事か。俺の言葉よりも、あいつとの任務が優先か」
「そういう意味では……っ」
「お前は、自分の価値を分かっていない。……お前が他の男に触れられる想像をするだけで、俺がどれほど……狂いそうになっているか、考えたことはないのか」
義勇の膝がの腿の間に割り込み、逃げ道を塞ぐ。
彼の低い吐息が、白粉の香りを塗り替えるように、彼女の肌に直接吹きかけられた。
「私情だと言われても構わない」
「冨岡様……貴方は、冷静な方のはずです。こんな、強引な真似…」
「……冷静でいられるはずがないだろう」
義勇は彼女の首筋に顔を埋め、深く、飢えた獣のようにその匂いを吸い込んだ。
掴まれた手首に、彼の鼓動が伝わってくる。
激しく、痛いほどの速さで。
「お前がいない数日間……俺が、どれほど壊れていたか。……もう、隠の仕事などしなくていい。お前を誰の目にも触れない場所に閉じ込めてしまいたいと……そう思っている自分に、俺自身が驚いている」
「……っ……」
「……嫌か。俺に、こうされるのは」
