第2章 しゃけ大根に溶ける貴方の心 【鬼滅の刃 冨岡義勇】
「……顔を上げろ」
低く響く義勇の声に、の肩がびくりと震えた。
ゆっくりと顔を上げた彼女の瞳が、義勇の姿を捉えた瞬間、その色が驚愕に染まる。
「……あ、……冨、岡……様……?なぜ、この様なところへ…」
の震える声が、静かな部屋に落ちた。
義勇は、彼女の前に置かれた酒器には目もくれず、ただじっと彼女を見つめている。
「なぜ、だと。……それは俺の台詞だ。隠の仕事はどうした。なぜ、こんな場所にいる」
「それは……宇髄様から、命を受けまして。上弦の鬼を炙り出すためには、教養があり、見目の良い者が……」
「お前である必要はないはずだ。危険すぎる」
「私が、志願したのです!」
が声を荒らげた。
白粉で隠された頬が、わずかに紅潮する。
「冨岡様が、独りで……すべてを背負って戦っているから。私は戦えませんが、潜入任務ならお役に立てるかもしれないと。少しでも、貴方の重荷を減らせるならと思ったのです」
義勇は無言のまま立ち上がり、の目の前まで歩み寄ると、その華奢な肩を掴んだ。
驚いて見上げるの瞳に、義勇の切実な熱が映り込む。
「……重荷ではない。お前がいなくなることこそが、今の俺には……」
義勇は言いかけて、唇を噛んだ。
不器用な彼が、精一杯絞り出した言葉は、熱を帯びた独占欲そのものだった。
「他の男のために装い、他の男に笑顔を向ける。……そんな任務、俺が許さない」
「冨岡、様……」
「……今夜一晩、お前を『買った』のは俺だ。……だから、今夜はお前の[[rb:主 > あるじ]]して命じる」
義勇の低く、熱を帯びた声が耳元を打つ。
その大きな手がの肩を強く引き寄せ、決して逃がさないという執着を露わにしていた。
「……もう、どこへも行くな。俺のそばで、隠として、ただのとして……ずっと、俺だけを支えていろ」
それは、寡黙な彼が初めて口にした、剥き出しの懇願だった。
の胸は激しく高鳴り、視界が涙で滲む。
今すぐその腕に縋りつき、「どこへも行きません」と答えられたら、どれほど幸せだろうか。
だが、は震える唇を噛み締め、彼の胸を弱々しく押し返した。