• テキストサイズ

夜の秘め事【裏夢の短編集】【R18】

第2章 しゃけ大根に溶ける貴方の心 【鬼滅の刃 冨岡義勇】


教えられた妓楼に足を踏み入れると、そこは今まで見てきた店とは一線を画す豪華さだった。
金箔を散らした襖、焚きしめられた香。
その奥から、男たちのため息と、衣擦れの音が聞こえてくる。

「………」

廊下の向こう。
禿を引き連れ、ゆっくりと歩いてくる一団があった。
その中心にいたのは、だった。
いつも彼女が纏っていた、地味な茶色の隠の装束ではない。
何層にも重ねられた重厚な絹の着物。
夕焼けのような朱色から深い藍へと移ろう美しい意匠。
結い上げられた髪には、歩くたびに微かに音を立てる豪華な銀の簪が挿されている。
そして、その顔。
薄く紅を引いた唇と、白粉で整えられた肌。
彼女の持つ本来の美しさが、毒々しいまでの彩りを得て、周囲を圧倒していた。

だが、義勇の目を釘付けにしたのは、その美しさではなかった。
大勢の男たちの視線に晒され、どこか、今にも消え入りそうなほど悲しげに揺れている、彼女の瞳だっーー。



男たちの熱気と、甘ったるい香の匂いが立ち込める「京極屋」の二階。
義勇は、柱の給金を詰め込んだ大きな巾着を卓に置き、店の者を冷徹な眼差しで見据えた。

「あの女を、今夜一晩、俺が買う。……これで足りるか」

差し出された金額は、普通の遊女の身請けさえ可能なほどの大枚だった。
店の者はその気圧されるような威圧感と、積まれた金の輝きに目を剥き、平伏するようにして彼を奥座敷へと案内した。


やがて、衣擦れの音と共に、しずしずと一人の女が入ってきた。

「……お初にお目にかかります。今夜、お相手を務めさせていただきます、と申します」

三つ指をつき、深く頭を下げるその姿。
豪華な振袖、白粉で整えられた項、そして結い上げられた髪。
かつての、地味な隠の姿はどこにもない。
だが、義勇には分かっていた。
頭を上げた瞬間に見えた、その潤んだ、けれど芯の強い瞳。
それだけで、彼には十分だった。



/ 270ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp