第2章 しゃけ大根に溶ける貴方の心 【鬼滅の刃 冨岡義勇】
「なぜ、俺に言わなかった」
「それは……水柱様はお忙しいですし、隠の移動なんてよくある事で、いちいち報告しないですし……」
隠の言葉を最後まで聞かず、義勇は背を向けた。
翻った半半羽織が、鋭い風を切る。
(死なせるわけにいかない)
かつて、守れなかった者たちの顔が脳裏をよぎる。
だが、今のこの感情は、単なる「責務」ではない。
彼女を誰にも、何者にも汚されたくない。
義勇は地を蹴った。
心の中には、自分でも驚くほど純粋で、剥き出しの独占欲が渦巻いていた。
「……宇髄」
任務の準備を整えていた宇髄天元の背中に、氷の礫のような声が突き刺さった。
振り返った宇髄は、そこに立つ義勇の形相を見て、珍しく面食らったように片眉を上げた。
「あぁ? なんだ冨岡。そんな般若みたいなツラして、地味に怖いぜ」
「……をどこへやった」
単刀直入な問いに、宇髄はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「あぁ、あの隠か。あいつは筋がいい。地味な隠の格好を脱がせて化粧させりゃ、驚くほど派手な女になったぜ。今は俺の立派な『駒』として、吉原の店に潜り込ませてる」
「……駒だと」
義勇の周囲の空気が、一瞬で凍り付いた。
「あそこは上弦がいる可能性がある場所だ。戦闘訓練も受けていない隠を、なぜ行かせた」
「潜入に柱は向かねぇんだよ。それに、あいつは自分の意志で行くと言ったぜ? 『冨岡様が守るこの世界を、私も少しでも支えたい』ってなぁ。泣かせるじゃねぇか」
宇髄がわざとらしく肩をすくめる。
だが、その言葉は火に油を注ぐだけだった。
「連れ戻す。場所を教えろ」
「断るね。これは正式な任務だ。私情を挟んで邪魔しに来る柱なんて、派手にお呼びじゃねぇんだよ。……お前、あいつをなんだと思ってる? たかが身の回りを世話する隠だろうが」
「……っ」
義勇は言葉に詰まった。
「隠」それ以上でも以下でもないはずだ。
だが、胸の奥で暴れるこの感情を、義勇は持て余していた。
「……とにかく、教えるつもりはねぇ。おとなしく任務の報告でも待ってな」
宇髄はそれだけ言い捨てると、音もなく姿を消した。
「……ならば、自分で探すまでだ」
義勇は一人、拳を固く握りしめた。
宇髄が教えないというのなら、力ずくでも探し出す。
(あんな場所に、彼女を置いておけるか)
