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夜の秘め事【裏夢の短編集】【R18】

第2章 しゃけ大根に溶ける貴方の心 【鬼滅の刃 冨岡義勇】


「俺は、守られるような人間ではない。いつか死ぬ。お前を悲しませるだけだ」
「それでも構いません。……貴方が明日もこの鮭大根を『美味い』と言ってくださるなら、私はそれだけで幸せなのです」
「……明日も、作ってくれるか」
「はい。何度でも。……おかわりも、ありますよ?」

が茶目っ気たっぷりに笑うと、義勇の口元が、ほんの、ほんの一筋だけ、綻んだような気がした。

月明かりが静かに落ちる屋敷の縁側。
任務から戻った義勇の足取りが、いつもより僅かに重いことに彼女はすぐに気づいた。

「冨岡様、おかえりなさいませ。……あ、左腕!」

が駆け寄ると、羽織の下、隊服の袖が鋭く裂け、そこからじわりと赤黒い血が滲んでいた。

「触るな、汚れる」

彼女が救急箱に手を伸ばすと、義勇は一歩後ろに下がり、怪我をした腕を隠すように背けた。

「……大したことはない。かすり傷だ」
「嘘を仰らないでください。袖がこれだけ裂けているのに。まずは傷口を洗って、縫う必要があるかもしれません」
「自分でやる。お前の手を煩わせるまでもない」

一歩踏み出し、彼の羽織の裾をぎゅっと掴む。

「…いつも、そう仰いますね」
「………」
「他の隠の方々は、冨岡様がそう仰れば下がります。でも、私は下がれません。貴方がご自分を大切になさらないのが、私は何より辛いのです」

の瞳に、強い光と隠しきれない潤みが宿る。
義勇はそれを見つめ、数秒の沈黙の後、小さく吐息を漏らした。

「……好きにしろ」



部屋に入り、行灯の明かりの下では丁寧に隊服を脱がせていく。
露わになった腕には、鬼の爪で引き裂かれたような深い三条の傷跡があった。

「……ひどい……。痛かったでしょうに」
「……慣れている。戦っていれば、これくらいは……」
「『慣れている』なんて、言わないでください」

は水で濡らした布で、慎重に血を拭っていく。
冷たい水と、彼女の指先の温かさが交互に傷口に触れる。
義勇の肩が僅かに震えた。

「痛みますか?」
「いや……。お前の手が、温かかっただけだ」
「……っ。そういうことを、急に仰るのは反則です」

彼女は顔を赤らめながらも、慣れた手付きで消毒し、清潔な包帯を巻いていく。
いつも料理をしている指先が、蝶結びを作るように最後を留めた。





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