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夜の秘め事【裏夢の短編集】【R18】

第2章 しゃけ大根に溶ける貴方の心 【鬼滅の刃 冨岡義勇】


隠のは、冷え切った廊下を静かに歩いていた。
手元には、出来立ての料理が載った盆。
彼女が仕える水柱・冨岡義勇は、その実力とは裏腹に、驚くほど言葉が少ない。
他の隠たちが「何を考えているか分からない」「怖い」と距離を置く中で、彼女だけは、彼の背中に漂う孤独を静かに見守り続けていた。

「……下げておいてくれ」

いつものように短く、拒絶に近い言葉が返ってくる。
は部屋に入り、膝をつくと、柔らかな微笑みを湛えて頭を下げた。

「冨岡様、今日はお疲れのご様子でしたので。宜しければ、これだけでも召し上がってください」

義勇は視線を落としたまま、手元の書物から目を離さない。

「……食欲がない」
「そう仰ると思いまして、精のつくものをご用意しました。実は……」

は少しだけ声を弾ませて続けた。

「先日、胡蝶様から伺ったのです。冨岡様は『鮭大根』がお好きだと」

ぴくり、と。
義勇の指先が止まった。

「……余計なことを」
「余計なことではありません。私は、冨岡様が少しでも笑ってくださるきっかけが欲しかったのです」

は盆を差し出した。
そこには、飴色に煮込まれた大根と、ふっくらとした鮭。
立ち上る湯気が、氷のように冷え切った部屋の空気をわずかに溶かしていく。

義勇はためらいがちに箸を取った。
一口、大根を口に運ぶ。出汁の旨味と大根の甘みが口いっぱいに広がり、彼の喉が小さく動いた。

「…………美味い」

消え入りそうな声だった。
は、その一言に胸が熱くなるのを感じた。

「良かったです……。味付け、お好みに合いましたか?」
「……ああ。懐かしい味がする。昔、食べたものと……似ている」

義勇がふと顔を上げた。
いつもは底の見えない暗い瞳が、今はほんの少しだけ、幼い子供のように揺れている。

「……お前は、なぜ私にここまで構う。他の者は、私を避けているはずだが」
「私は『他の者』ではありませんから」

は真っ直ぐに彼の瞳を見つめ返した。

「私は、水柱様に仕える隠です。貴方が命を懸けて守っているこの世界で、貴方の心まで守りたいと思うのは……不敬でしょうか?」

義勇は箸を置き、じっとを見つめた。
その瞳に宿る献身と、隠しきれない愛情。


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