第10章 ※地獄の底で 君の名前を呼んだ【ヒロアカ 轟焦凍】
轟はバーニンの忠告を背中で聞き流し、応接室を後にした。
「ショートくん! 待ちな、早まるんじゃないよ!」
背後で叫ぶバーニンの声を無視して、轟は人気のない廊下を進む。
NAME1#はもはや涙も出ないのか、ただ虚空を見つめたまま、ガタガタと小刻みに震えている。
「……焦凍、くん……。もう、いいよ……。私のせいで、あなたがヒーローになれなくなるのは……嫌……」
彼女は自分の人生が壊されたことよりも、まだ自分を抱きしめる少年の未来を案じていた。
そのあまりにも歪で健気な献身が、轟の心に消えない火を灯した。
「心配すんな。……俺がなるのは、お前を救えないヒーローじゃねぇ」
轟はエンデヴァーの私室へ向かった。
そこには、保須の一件を片付け、威厳を纏って椅子に座る実父がいた。
「親父」
「……何の用だ、焦凍。ここに女を連れてくるとは――お前は……」
「黙れ。親父の指図はもう受けねぇ。……これを見ろ」
轟は、奪い取った数台のスマートフォンを机に叩きつけた。
エンデヴァーが眉をひそめて画面を覗こうとすると、轟はその手を力強く抑え込んだ。
「中を見る必要はねぇ。中身は、俺がいない間にこいつが味わわされた地獄の記録だ」
轟は、背後で震えるを自分の影に隠すように立ちはだかり、絞り出すような声で「事実」だけを告げた。
「俺が実習をしてた一週間……こいつは女共に連れ去られ、監禁され、男たちに好き放題に回され続けた。動画を撮られ、それを盾に毎日、学校のトイレやラブホテルで、玩具のように蹂躙され続けたんだ」
「……何だと」
エンデヴァーの顔から余裕が消えた。
息子が今、どれほどの怒りを抑え込み、目の前の少女がどれほどの絶望を耐え抜いてきたか。
その一端を聞くだけで、部屋の空気が凍りつくのが分かった。