第10章 ※地獄の底で 君の名前を呼んだ【ヒロアカ 轟焦凍】
月曜日。
一週間の地獄を耐え抜いたは、ボロボロになった心で今日という日を待っていた。
実習を終えた焦凍が迎えに来てくれる。
そのことだけを、泥濘の中を這いずるための唯一の希望にしていた。
だが、彼女を待っていたのは、あの忌まわしい女子生徒だった。
「お疲れ様。一週間、よく頑張ったわね」
勝ち誇ったような笑み。
その手には、彼女の恥部をこれでもかと記録したスマホが握られている。
「……約束、しましたよね。全部終わったら、動画は消すって……っ」
「消す? まさか。こんな価値のあるもの、手放すわけがないでしょう? ……いい?轟さんと今すぐ別れなさい。さもなければ、この一週間の記録を、今この瞬間にネットにあげるわよ」
心臓が凍りついた。
一週間耐え抜けば、また彼の隣で笑えると信じていた。
その祈りに近い願いは、あまりにも無慈悲に踏みにじられた。
別れたくない。
けれど、もしあの動画がばら撒かれれば、自分だけでなく、将来有望なヒーローである轟の泥を塗ることになる。
彼を守るためには、自分が消えるしかない。
震える指で、は焦凍へのメッセージを綴った。
『ごめん。他に好きな人ができたの。もう、会いたくない。別れてほしい』
一文字打つごとに、血を吐くような思いだった。
送信ボタンを押した瞬間、彼女の視界は涙で真っ白に染まった。
一方、迎えに行く途中そのメッセージを受け取った轟焦凍は、一瞬、自分の目が信じられなかった。
「……は? 好きな人……?」
冗談にしても質が悪すぎる。
先ほどまで、あんなに再会を待ちわびていたはずの彼女が、なぜ。
すぐに電話をかけるが、何度呼び出しても応答はない。
拒絶の沈黙が、轟の胸に焦燥と黒い違和感を植え付ける。
あまりにも唐突で支離滅裂な別れの言葉。
電車に揺られながら、轟は手の中のスマートフォンを強く握りしめた。
(あり得ねぇ……。あいつが、そんなことを言うはずがねぇ……)
保須の病院で聞いた、あの震える声。
何かに怯え、必死に自分を繋ぎ止めようとしていた切実な響き。
それが「嘘」だったとは、到底思えなかった。
電車のドアが開く。
轟は逸る気持ちを抑えきれず、駅のホームを駆け抜けた。
心臓が早鐘を打ち、嫌な汗が背中を伝ったーー。