第10章 ※地獄の底で 君の名前を呼んだ【ヒロアカ 轟焦凍】
翌日、比較的軽傷であった轟は、医師の制止を半ば振り切るようにして退院した。保須の病院を後にし、エンデヴァーの事務所へと戻る。
「……少し、考えすぎか」
移動中、昨夜の電話で感じた胸騒ぎを打ち消すように、轟は思考を仕事へと切り替えた。
自分はプロの現場に身を置くヒーロー志望だ。
未曾有の事態が続く今、私情で集中を欠くわけにはいかない。
何より、帰りを待つに誇れる自分であるために、目の前の実習を完遂しなければならない。
「待ってろ、すぐ戻る」
その呟きは、愛する者への誓いだった。
しかし、その「守るべき日常」の裏側で、の日常は完全に崩壊していた。
実習期間が続く限り、彼女の地獄に終わりはなかった。
学校が終われば、あの呪わしい黒い車が校門の影で獲物を待つように牙を剥いている。
「さあ、今日もお友達をたくさん呼んでおいたわ。楽しみにしてなさい」
女子生徒の冷酷な言葉と共に、車内へと引きずり込まれる。
そこから先は、また意識を失うほどの蹂躙が待っていた。
玩具のように扱われ、そのすべてをカメラに収められる日々。
(痛い……、……苦しい……っ……)
涙はとうに枯れ果て、心は摩耗しきっていた。
けれど、絶望の淵で彼女を繋ぎ止めていたのは、細く脆い希望だった。
(あと少し……。焦凍くんが実習から戻るまでの、我慢だから。それが終われば、きっと、元に戻れる……)
自分がこれほどまでに汚され、尊厳を奪い尽くされているなど、彼は決して知らない。
実習が終われば、彼はまた自分をあの優しい瞳で見つめてくれる。
その「嘘の日常」を死守するためだけに、は襲い来る暴力的な快楽と、吐き気を催すような屈辱に必死に耐え続けていた。
しかし、彼女はまだ気づいていない。
注ぎ込まれた執着がナカから溢れ出すたびに、彼女の魂もまた、一歩ずつ取り返しのつかない深淵へと引きずり込まれていることに。