第10章 ※地獄の底で 君の名前を呼んだ【ヒロアカ 轟焦凍】
週明け、いつもなら校門の前で堂々と待っているはずのあの背中がない。
「……そっか。今日からだもんね、焦凍くん」
は小さく息を吐き、一人で帰路についた。
彼に愛された熱を反芻しながら歩を進めるが、住宅街へと続く人通りの少ない道に差し掛かった時、行く手を阻むように数人の女子生徒が立ちはだかった。
中心にいたのは、先日、轟に無情にあしらわれていた女子生徒と、その取り巻きたちだった。
「ごめんあそばせ? 少しお話、よろしいかしら」
取り巻きを引き連れ優雅に、けれど威圧的に詰め寄ってくる。
その瞳には隠しきれない嫉妬の炎が揺らめいていた。
「……ごめんなさい、急いでるから」
嫌な予感が背筋を駆け抜け、は視線を逸らして横を通り過ぎようとした。
だが、即座に肩を強く掴まれ、逃げ道を塞がれる。
「逃げられると思って? 轟さんに馴れ馴れしく縋り付いて……。あの方に恥をかかされた分、少しくらいお礼をさせてもらわないと気が済まないのよ」
「お礼」という言葉とは裏腹に、取り巻きたちが細い腕を数人がかりで押さえつけてくる。
多勢に無勢、抵抗する術がないは必死に身を捩ったが、そのまま強引に路地裏へと引きずられていく。
そこには、アイドリングを続けたままの一台の黒い車が止まっていた。
「な、……離して! 助けて……っ!」
「お黙りなさい! 見苦しいわよ、本当に」
悲鳴をあげようとした口を、乱暴に塞がれた。
酸素が遮られ、目の前が白む。
そのまま抵抗虚しく、の体は車内へと無理やり押し込まれた。
バタン、と重いドアの閉まる音が、退路を断つように響く。
「……出しなさい。たっぷりあなたを教育してあげますわ」
お嬢様然とした傲慢な指示と共に、車は静かに滑り出した。
守ってくれるはずの「彼」がいない一週間の始まりに、最悪の綻びが生じようとしていた。