第10章 ※地獄の底で 君の名前を呼んだ【ヒロアカ 轟焦凍】
だが、そんな蜜月の日々にも避けては通れない「ヒーロー候補生」としての日常が割り込んでくる。
週末の別れ際、轟は玄関先で少しだけ言い淀んだ後、意を決したように切り出した。
「……。来週、一週間は会いに来られない」
「えっ……? どうして?」
「職場体験が始まる。……俺は、親父……エンデヴァーの事務所に行くことに決めた。拘束時間が長いし、泊まり込みになる可能性が高い」
「……そうなんだ。ヒーローになる為に、頑張らなきゃだもんね」
は寂しさを隠すように、努めて明るく笑った。
この週末も彼女は彼と過ごしたかったが、轟には私用や準備があり、次に会えるのは再来週の月曜日になる。
「週末も会いたかったが、予定が入ってて……。悪いな。……次は、再来週だ」
轟は申し訳なそうに眉を下げると、彼女の頬を大きな掌で包み込んだ。
「一週間、……長いな。お前の匂いがしねぇところで、耐えられる気がしねぇ」
「ふふ、大げさだよ。……私も寂しいな。……でもね、今週たくさん愛してもらったから、私、大丈夫だよ。……待ってるね、焦凍くん」
彼女の健気な言葉に、轟はたまらずその額に深い口付けを落とした。
「……ああ。……すぐ、戻ってくる。……浮気、するなよ」
「するわけないでしょ。……いってらっしゃい」
夜の帳が下りる中、遠ざかっていく彼の背中を見送る。
一週間。
それは、孤独に慣れていたはずのにとって、初めて経験する「愛する人を待つ」ための、甘く、切ない時間のはじまりーーになるはずだった。
まだ、この時の二人は知らなかった。
この後彼女の身に起こる、絶望の日々をーー。
後悔の念にかられる日々をーー。