第10章 ※地獄の底で 君の名前を呼んだ【ヒロアカ 轟焦凍】
「え、あ……うん。そうだよね、急に来てもらっちゃったし……」
顔を真っ赤にしたまま、名残惜しそうに服の裾を握る。
その無自覚な誘惑を振り払うように、轟は彼女の頭を一度だけ強く撫でた。
「明日、放課後に校門まで迎えに行く。……一人で帰るなよ。約束だ」
その言葉だけを残し、彼は逃げるようにマンションを後にした。
夜の冷たい風が、火照った身体を容赦なく叩く。
だが、それでも胸の奥の熱は一向に引く気配がなかった。
翌日。
はいつも通り、静まり返った教室で孤独な時間を過ごしていた。
授業の内容は相変わらず難解で、周囲のグループからは時折、彼女を疎外するような冷ややかな視線が飛んでくる。
けれど、今日だけは違った。
制服のポケットに忍ばせた、あの安っぽいおもちゃの指輪が、指先に確かな勇気を与えてくれていた。
(放課後、焦凍くんが来てくれる……)
その期待だけを支えに、長い一日を耐え抜いた。
終礼のチャイムが鳴り、逃げるように教室を出て校門へと向かうと、見えてきた光景には足を止めた。
校門付近が、異様な熱気に包まれている。
「何、あの人……カッコよすぎるんだけど」
「雄英の制服じゃない? この前の体育祭に出てた……」
黄色い歓声と人だかり。
その中心に、彫刻のように整った横顔を持つ少年が立っていた。
轟焦凍だ。
彼は周囲の喧騒など目に入らないと言わんばかりに、無表情で一点を見つめていた。
だが、その行く手を遮るように、一人の女子生徒が立ちはだかっていた。
この学校の理事長の孫であり、学年を牛耳る絶対的な権力者。
取り巻きを引き連れた彼女は、どこか高圧的な笑みを轟に向けていた。
「あら、雄英のヒーロー科で活躍された方が、わざわざ我が校に何の御用かしら? もしかして、私に会いにいらしたの?」
庶民であるを散々「場違いだ」と嘲笑ってきた彼女たちが、今は自分たちのテリトリーに現れた「獲物」を品定めするように囲んでいた。