第10章 ※地獄の底で 君の名前を呼んだ【ヒロアカ 轟焦凍】
「ずっと、持ってたんだよ。独りで心細かった時も、これがお守りだったの。……いつか、また焦凍くんに会える日が来るって、ずっと夢見てたから」
の声が、堪えきれずに震えだす。
「昨日、テレビで焦凍くんを見て……。いてもたってもいられなくなって、今日、学校まで行ったんだよ……振替休日で、会えなかったけど」
「……学校に? 俺に会いに来たのか」
「うん。……でも、会えなくて……帰り道にすごく落ち込んでて……。そしたら、焦凍くんが名前を呼んでくれたから」
彼女の告白は、轟の胸に最も深い場所へと突き刺さった。
自分が地獄のような日々を耐えていた間、彼女もまた、この小さな指輪を支えに自分を想い続けてくれていた。
十年の空白など、この指輪の前では無意味だった。
「……」
轟はたまらず彼女を再び強く抱きしめた。
今度は、壊れ物を扱うような優しさではなく、二度と離さないという強い意志を込めて。
「お前も、俺と同じだったんだな」
「……大好きだよ、焦凍くん。昔も、今も、ずっと」
彼女の細い背中を撫でながら、轟は彼女の耳元で、十年前よりもずっと深く、確かな声で言葉を紡ぐ。
「改めて、言わせてくれ。……、俺はお前が好きだ。世界中の誰よりも」
腕の中の彼女が、びくりと肩を揺らす。
「子供の時の約束じゃない。今の俺として、お前を一生守りたい。……俺の隣に、ずっといてくれるか?」
「……っ、うん」
「もう、どこにも行かせない。……約束だ」
轟は彼女の額にそっと唇を寄せ、静かに誓った。
父親に奪われ、運命に引き裂かれた時間は、今この瞬間、二人の手によってようやく取り戻されたのだ。
額に落とされた柔らかな感触が離れると、二人は自然に額を突き合わせた。
至近距離で混じり合う、互いの熱い吐息。
「……」
名前を呼ぶ轟の声は、これまでに聞いたことがないほど深く、甘く響いた。
吸い寄せられるように顔が近づき、どちらからともなく唇が重なる。
十年前、公園の隅で交わしたような、触れ合うだけの淡いキス。
けれど、一度その柔らかな感触を思い出してしまえば、積み重ねられた十年の渇望が堰を切ったように溢れ出した。