第10章 ※地獄の底で 君の名前を呼んだ【ヒロアカ 轟焦凍】
「体育祭で色々あって……母さんと話してきた。泣かれたけど、最後は笑ってくれた。十年かかったけど、ようやく……あの日から進めた気がする」
「……よかった。本当によかったね、焦凍くん」
の顔に、今日初めて、心からの柔らかな笑みが浮かんだ。
自分の孤独よりも、彼の救いを何より優先して喜ぶその姿。
「ああ。母さんと和解できて、その帰りに、こうしてお前にも再会できた。……今日は、俺の人生で一番最高の日だ」
言葉と共に、轟は彼女の手をさらに強く握りしめた。
その真っ直ぐな瞳が、逃がさないと言わんばかりにを射抜く。
「。……十年前の、あの公園での約束、覚えてるか」
「え……?」
不意に核心を突かれ、の心臓が跳ねた。
あの、幼い日のままごとのような、けれど自分にとっては命綱だった約束。
「ずっと一緒にいようって。……俺のお嫁さんになってくれるかって、言ったよな」
「……覚えてるよ。忘れるわけないじゃない。……でも、あれは子供同士の、その場の約束だったし……」
「俺は、一度も忘れたことはない」
轟の声が一段と低く、熱を帯びる。
「親父に引き離されて、母さんがあんなことになって……。心が凍りそうになるたびに、あの公園でお前が笑ってくれたことだけを思い出してた。……お前が俺の、唯一の光だったんだ」
「焦凍、くん……」
「俺の気持ちは、十年前から一歩も動いてない。……むしろ、もっと強くなった。お前は……どうなんだ? 今でも、あの約束を守ってくれるか?」
ワンルームの狭い部屋に、轟の切実な問いが響く。
隣り合う二人の距離。
重なり合う体温。
十年の空白を埋めるように、轟は彼女の答えを待った。
「……焦凍くん、これ見て」
は震える手で、学校の制服のポケットから古びたお守りを取り出した。
それを大切そうに開けると、中から出てきたのは、メッキの剥げかけた安っぽいおもちゃの指輪だった。
十年前、公園で彼が「お嫁さんになって」と言ったとき、景品のガシャポンか何かで手に入れて彼女の指にはめた、あの日の約束の証。
「……っ、それ」
轟の瞳が大きく見開かれた。
彼が忘れるはずのない、自分たちの約束の象徴だった。