第10章 ※地獄の底で 君の名前を呼んだ【ヒロアカ 轟焦凍】
「うん。でも、急に親の海外転勤が決まって……高校受験を機に、一人でこっちに戻ってきたんだ。ここなら、もしかしたら焦凍くんに会えるかもしれないって、心のどこかで思ってた」
は自嘲気味に小さく笑った。
その笑顔には慣れない一人暮らしや、学校での孤立に耐えてきた少女の、隠しきれない疲労が滲んでいた。
「……悪かった」
轟の声が、低く沈む。
「俺がもっと強ければ。親父に逆らってでも、もっと早くお前のところへ行けていれば。十年間も、お前を一人にしなくて済んだのに」
「そんなの、焦凍くんのせいじゃないよ」
彼女は反射的に首を振った。
そして、ずっと気になっていたけれど、怖くて聞けなかった問いを口にする。
「……その、顔。どうしたの?」
震える指先が、彼の左側の火傷の痕に向けられる。
テレビで見たときよりもずっと生々しく、痛々しいその証。
十年前の、真っ白だった彼の額。
轟は一瞬、瞳を伏せたが、逃げることなく彼女を見つめ返す。
「これは……母さんがやった」
告げられた衝撃的な事実に、は息を呑んだ。
「母さんは、俺の左側を見て……親父を思い出して、狂って……沸騰した湯を、俺に浴びせた」
部屋を支配する、重く冷たい静寂。
はかける言葉が見つからず、ただ、その火傷の痕を、宝物を扱うような慈しみを込めて見つめた。
「……痛かったよね。怖かったよね、焦凍くん」
彼女の瞳から一滴の涙が零れ落ち、指先が震えながらその赤い痕に触れた。
自分が孤独だと思っていた十年間。
彼は、もっと深い闇の中で、独りきりでこの傷を背負い続けてきたのだ。
「……ああ。でも、もう大丈夫だ」
轟は彼女の手をそっと取り、自分の頬に引き寄せた。
吸い付くようにその掌に擦り寄り、深い溜息をつく。
「今日、母さんに会ってきたんだ。……十年ぶりにな」
「……お母さんに?」
驚きで涙を止めたに、轟は小さく頷いた。