第10章 ※地獄の底で 君の名前を呼んだ【ヒロアカ 轟焦凍】
「……本当に、か?」
掴んだ手首から、温かな体温が伝わってくる。
左側に刻まれた火傷を見ても、彼女は怯えるどころか、泣き出しそうな顔で轟を見つめていた。
十年からが心を閉ざし、氷の中に閉じこもっていた間でも、一度も忘れることのなかった存在。
目の前にいるのは、あの日の約束の続きを、ずっと抱えたまま生きてきた彼の「救い」そのものだった。
「……焦凍、くん?」
震える声が静かな夕闇に溶けた。
その響きに、少年の肩が微かに揺れる。
次の瞬間、彼はこらえきれなくなったように彼女の細い体を腕の中に閉じ込めた。
「――っ、……」
低く、掠れた声。
それは雄英の体育祭で見せた冷徹な氷の貴公子のものとは思えないほど、切実な熱を帯びていた。
「ちょ、焦凍くん!? ちょっと待って、みんな見てるから……っ」
突然の抱擁に、は動揺して彼の胸を押し返そうとする。
駅前の雑踏で、有名なお嬢様学校の制服を着た少女と、昨日の今日で顔が知れ渡った有名人が抱き合っていれば、通行人が足を止めるのは必然だった。
好奇の視線が突き刺さり、ひそひそという囁き声が広がる。
だが、彼は離さなかった。
「……構うもんか。ずっと、お前を探してたんだ」
耳元で囁かれた言葉に、の体から力が抜ける。
親父に引き離され、母を失い、心を氷の中に閉じ込めてきた十年。
その空白を埋める唯一の手段が、今、この腕の中にあった。
「でも、本当に目立つから……! 私の家、すぐ近くだから。そこなら、ゆっくり話せるし……」
顔を真っ赤にして俯く彼女の必死の訴えに、彼はようやく腕の力を緩めた。
彼女の瞳には戸惑いと、溢れ出しそうな涙が溜まっている。
「……悪い。案内してくれ」
二人は言葉少なに、駅前の喧騒を逃れるように歩き出した。