第10章 ※地獄の底で 君の名前を呼んだ【ヒロアカ 轟焦凍】
放課後、は気づけば電車に飛び乗っていた。
勉強の遅れも、孤立している現状も、すべて放り出した。
ただ、一目だけでも彼に会いたかった。
あの約束を覚えているかなんて、二の次でよかった。
息を切らして辿り着いた雄英高校を前に、彼女は呆然と立ち尽くす。
しかし正門は、無情にも静まり返っていた。
「……振替休日」
掲示板に貼られたその四文字が、彼女の熱を急速に冷やしていく。
昨日の今日だ。
激闘を繰り広げた生徒たちが、今日この校舎にいないのは当然のことだった。
「私、何やってるんだろ……」
膝の力が抜け、はその場に蹲った。
十年と長すぎた空白。
彼はもう、自分など入り込めない「ヒーロー」という世界の中心にいる。
それに対して自分は名前すら呼ばれない、ただの「その他大勢」の一人でしかない。
あの火傷は誰がつけたのか。
あの日、彼が「お嫁さんになって」と笑ったときには、あんな傷はなかったのに。
沈みゆく夕日が、雄英の巨大な校舎を長く、冷たく引き伸ばしていたーー。
は重い足取りで駅へと向かった。
電車の心地よい揺れすら、今の彼女には自分を現実へと連れ戻す冷酷なリズムに感じられた。
地元の駅に降り立ち、夕闇が降り始めた街を歩き出す。
慣れない一人暮らしの部屋へ帰っても、待っているのは冷えた空気と、山積みの参考書だけだ。
「……帰ろ」
自分に言い聞かせるように呟き、俯いたまま歩を進めた、その時だった。
「――?」
鼓膜を震わせたのは、聞き覚えのない、けれどどこか魂の奥底に響くような低い声だった。
間髪入れず、右の手首を強い力で掴まれる。
「えっ……」
驚きに心臓が跳ね上がり、反射的に振り返った。
そこに立っていたのは、昨日テレビ越しに見ていたあの少年だった。
燃えるような赤と、凍てつくような白。
その境界線に刻まれた、痛々しい火傷の痕。
間近で見る彼は、テレビで見るよりもずっと背が高く、肩幅も広く、大人の男の体躯をしていたーー。