第9章 魅惑的な太腿をもつ君と♡ 【ハイキュー!! 黒尾鉄朗】
手を洗い、乱れた制服を整えてから教室に戻ると、案の定、が不安そうな顔で自分の席に座っていた。
「あ、黒尾くん……! 大丈夫だった? すごく時間かかってたから……」
こちらを覗き込む。
だが、黒尾はわざと彼女の視線を避け、そっけない動作でカバンから次の時間の教科書を取り出した。
「……あー。別に、なんともねーよ。ただの立ちくらみ」
「でも、さっきも顔すごく赤かったし…」
「……悪い、ちょっと…今、余裕ねーんだわ」
黒尾はそう掠れた声でこぼすと、力なく机に突っ伏した。
隣の席で、がびくっと肩を揺らすのが気配でわかる。
「…黒尾くん? 本当に具合悪いの? 顔、さっきよりずっと赤いよ…?」
が心配そうに椅子を引いて、黒尾の方へ身を乗り出す。
甘い香りがふわりと鼻先を掠め、黒尾は思わず机の端を強く握りしめた。
「……保健室、付き添うよ? 先生に言ってく――」
「いや、いい……。ちょっと、ほっといてくれ……」
突き放すような言い方になってしまったのは、自分でもわかっていた。
案の定、の気配がしゅんと萎む。
「……そっか。ごめん、しつこくしすぎたよね」
は寂しそうに視線を落とし、机の上の筆箱をいじり始めた。
いつもなら軽口を叩いて彼女を笑わせるはずの隣同士の距離が、今はひどく遠く、気まずいものに感じられる。
「っ……、いや、そうじゃなくて……」
謝ろうとして顔を上げたものの、すぐ隣にある彼女の潤んだ瞳を見た瞬間、さっきトイレで吐き出したはずの欲望が、また熱く喉元までせり上がってきた。
(……ダメだ。今まともに話すと、絶対変なこと口走る……)
「悪い。ちょっと頭冷やしてくる」
「…っ、黒尾くん!」
黒尾は逃げるように席を立ち、の呼び止める声も聞かずに教室を出た。
廊下の窓から入り込む冷たい風に当たりながら、彼は自分の熱すぎる頬を押さえる。
「……あんな顔すんのは、反則すぎだろ……」
隣に座っているだけで、今朝の夢を現実へと引き寄せようとしてくる。
自分の中の猛獣を抑え込むのに必死な黒尾は、傷つけてしまった彼女への申し訳なさと、抑えきれない独占欲の間で、何度も深くため息をついた。