第8章 可愛い猫の誘惑♡ 【僕のヒーローアカデミア 相澤消太】
2月14日のバレンタインデーの日、雄英高校の廊下は、朝から甘い香りと浮足立った空気で満ちていた。
はクラスメイト全員に「いつもありがとう!」と明るく手作りクッキーを配り歩き、その流れで職員室にも顔を出した。
「相澤先生! 先生もどうぞ、義理のクッキーです!」
周囲に他の教師がいる手前、彼女はあくまで『教え子の一人』として、無造作に小袋を相澤の机に置いた。
だが、その底には彼の為の特別な本命チョコが忍ばせてある。
「……ああ。手間をかけさせたな」
相澤は相変わらずのだるそうなトーンで応じ、視線も合わせずにそれを受け取った。
放課後。
教師たちが次々と帰路につき残っているのは相澤と、隣の席で鼻歌を歌いながら書類を整理しているマイクだけになった。
相澤は周囲を一度だけ見渡すと、引き出しの奥から先ほどの包みを取り出した。
クッキーの層をそっと避けると、現れたのは丁寧にラッピングされた深紅の箱。
「……ったく。あいつは……」
独り言をこぼしながら、相澤は箱を開けた。
中には、一目で手間がかかっていると分かる艶やかなショコラ。
一つ口に運ぶと、口の中に広がる濃厚な甘さと、わずかな苦味。
それはまるで、奔放な彼女に振り回されながらも、どこか心地よさを感じている今の自分の心境そのもののようだった。
「……悪くない」
知らず知らずのうちに相澤の口元がわずかに緩んだ。