第1章 1
新しいチャンピオンが生まれて一ヶ月が経とうとしていた。ローズ会長の騒動も収束が見えておりジムリーダー各位はようやく肩の力を抜ける。
そうしてキバナは写真の整理をしながら考えに耽っていた。終生のライバルとして常に頭上に降臨していたダンデがポケモンバトルに負けた。新たに誕生したチャンピオンはバトルセンスがずば抜けており、まさしく恒星と表現しても過言ではない。
焦りに急かされるのは悪いことではない。しかし今キバナが持てる技術以上に何ができるのかわからない。同時に恐怖さえも感じていた。
夕方、息抜きを兼ねて外へランニングをする。走っていると余計な考えを置いていける。やれることをやるしかないのだと再確認しながら街灯の下を走り抜けた。
すると路地裏から声が聞こえた。年も若く、チャンピオンやホップと同じくらいの背丈。何やら困っているようでキバナは思わず駆け寄った。
「どうした、何かあったか」
「あ、う」
チリンチリンと鈴の音。子どもを揶揄うように鈴を鳴らして遊ぶヤミラミがいた。ヤミラミがこんな街にいることも珍しいが、きっと鈴を宝石と勘違いしているに違いない。そして鈴は子どもの持ち物であろう。
察したキバナはフライゴンを出してヤミラミを威嚇する。
「鈴、返してくれるよな?」
強者という言葉が相応しい風格にヤミラミは怖気付いて鈴をその場に落とし去っていった。フライゴンがすかさずそっと咥えて子どもに渡すが何の反応もない。受け取る素振りすらないので顔を覗き込んだ。
「おい、大丈夫か?どこかケガを……」
その顔には見覚えがあった。子どもの顔にしては整い、完成された芸術品。そしてかたく閉じられた瞼。杖を持つ姿でキバナ自身なぜ早く気づかなかったと自責した。
「リネア、鈴、返してもらったぜ」
「あっ、ありがとうございます」
「杖に鈴をつけるから借りていいか?」
「お願いします……」
フライゴンから鈴を受け取り鈴を杖に取り付ける。