第3章 影を操る彼は彼女を隠したい 【呪術廻戦 伏黒恵】
一時間後。
何食わぬ顔で食堂に現れた二人だったが、一歩足を踏み入れた瞬間にそれは始まった。
「あー! 来た来た、朝帰りのカップルご一行様だー!」
虎杖が、ご飯を口に含んだまま無邪気に指をさす。
その隣では、野薔薇が獲物を見つけた猛獣のような目で二人を値踏みしていた。
「ちょっと、いのり。あんた、なんだか肌のツヤが良すぎない? それにその首元……タートルネックで隠してるつもりでしょうけど、私の眼は誤魔化せないわよ」
「わ、野薔薇ちゃん! 何のことかな……?」
「しらばっくれんな! 伏黒も! あんた、朝から妙に落ち着き払っちゃって……。さては『責任取る』とか何とか言って、一晩中寝かせなかったんでしょ!」
「……うるさい。任務が長引いたんだ」
伏黒は努めて冷静にトレイを持って席につくが、その背後から、一番厄介な「最強」が音もなく忍び寄っていた。
「恵〜、嘘は良くないな〜。先生、GPSで二人がラブなホテルにチェックインしたの知ってるんだからね?」
五条悟が伏黒の肩に肘を置き、耳元でニヤニヤと囁く。
「おかげで報告書、僕が適当に書いといてあげたよ。『伏黒くんがいのりちゃんを愛で塗り潰すための緊急事態が発生したため』って」
「書き直せ、クソ目隠し!!」
伏黒が椅子を蹴り飛ばさんばかりの勢いで立ち上がる。
「きゃー♡恵くんが怒ったー! でもいいよねぇ、青春!!昨夜は何度、彼女のナカに愛を注いだのかな〜♡」
「…………っ、殺す!!」
顔を真っ赤にしてキレる伏黒と、湯気が出そうなほど俯いて震えるいのり。
その光景は、側から見ればこれ以上ないほど「幸せな恋人たち」そのものだった。
「……ま、良かったじゃん。伏黒、お前昨日よりずっといい顔してるわ」
虎杖が、ふと真面目な顔をして笑った。
その言葉に、伏黒は毒気を抜かれたように座り直す。
「……ああ。……そうだな」
伏黒は隣で俯くいのりの手を、机の下で誰にも見えないようにギュッと握りしめた。
揶揄われるのは癪だが隠すつもりもない。
彼女を救い、愛し抜くと決めた。
その誇りが、伏黒の胸をこれまでになく強く満たしていた。