禪院家の落ちこぼれシリーズ 【R18】クロスオーバー
第12章 糖尿病の彼は彼女を甘やかしたい 【銀魂 坂田銀時】
冷たい鉄の感触と、鼻を突く錆びた潮の香り。
いのりが意識を取り戻した時、そこは船の上だった。
両腕を頭上で鎖に繋がれ、つま先が辛うじて床に触れる程度の高さで吊るされている。
「……うっ、あ……」
目の前には、虚ろな笑みを浮かべた男——岡田似蔵が立っていた。
その右腕と一体化した異形の刀『紅桜』が、生き物のようにドクドクと脈打っている。
「……ようやくお目覚めかい。この子がねぇ、君を離したがらないんだよ。いい匂いがする、とね……」
「……やめて。その、刀……気持ち悪い……」
「気持ち悪い? くくっ、光栄だねぇ。だがね、君のその『血』を一口舐めただけで、こいつの出力が跳ね上がった。……試してみようじゃないか」
似蔵が紅桜の刃をゆっくりと、いのりの細い二の腕に滑らせた。
鋭い刃が肌を裂き、赤い血が溢れ出す。
その瞬間、紅桜の触手が狂喜したように蠢き、傷口から溢れる血を貪り食った。
ーードクンッ!
船体そのものを揺らすような、凄まじい鼓動。
いのりの血には、禪院という呪いの名家に流れる、昏く濁った呪力が宿っている。
力が弱いとはいえ、それは妖刀にとって、最高級の劇薬に他ならなかった。
「……はぁ、はぁっ……! 素晴らしい! どんどん馴染んでいく……! さあ、もっとだ。もっと君の血を……!」
似蔵が興奮に目を血走らせ、再び刃を突き立てようとしたその時。
「……よせ、似蔵。壊れちまうだろうが」
冷ややかな声が、暗がりの奥から響いた。
着物をだらしなく着崩し、紫の煙を吐き出しながら現れた男——高杉晋助。
「……この女の血は……!」
「わかっている。……だが、そんな美味い酒を一度に飲み干すのは、無粋ってものだ。やるならゆっくり、少しずつ吸わせな。……その方が、この『紅桜』も長く良い夢が見られるだろうよ」
高杉の言葉に、似蔵は不満げに鼻を鳴らしながらも、ゆっくりと刃を引いた。
「……ふぅ。命拾いしたね、お嬢さん」