第2章 現代最強は彼女を手放さない 【呪術廻戦 五条悟】
医務室の空気は、五条が放つ甘く濃密な熱に支配されていた。
五条はベッドに横たわるいのりの額に、慈しむようにゆっくりと唇を落とす。
「今は何も考えなくていい。ゆっくり休みな。……いい夢を見なよ、いのり」
「……はい、五条先生……」
彼女の意識が深い眠りへと落ちていくのを見届けてから、五条は再び目隠しを付け直した。
その直後、静寂を破るように、廊下から聞き慣れた不遜な足音が近づいてきた。
「——なんや、噂通りのみっともない姿やな。一級相手に怪我して寝込むなんて、やっぱり落ちこぼれはどこまで行っても落ちこぼれや」
扉を乱暴に開けて現れたのは、禪院直哉だった。
彼はベッドに横たわるいのりを一瞥すると、心底蔑むような笑みを浮かべた。
「五条君。わざわざこんな『胎』にもならん女、いつまで置いておくんです? 術師として使えんのなら、さっさと本家に返してもらわんと。……ああ、怪我したんなら、ちょうどええ。僕が連れて帰って、教育し直してやるわ」
直哉がいのりの細い腕を掴もうと手を伸ばした瞬間、その指先が不可視の壁に阻まれた。
「……あ?」
「そこまでにしなよ。ここは僕の学び舎だ。部外者が土足で踏み込んでいい場所じゃないんだよ」
五条の声は驚くほど穏やかだったが、室内の温度が急激に下がったかのような錯覚を直哉に与えた。
「……五条君。君、この女を買い被りすぎや。こいつはな、僕がいないと何もできん。禪院の家で、僕に鳴かされてるのがお似合いの女なんや」
直哉は苛立たしげに吐き捨てたが、五条の「無限」を前に、それ以上踏み込むことはできなかった。
尊敬し、憧憬の対象ですらある五条に真っ向から逆らう勇気は、今の彼にはない。
「……ちっ。今日は引いたるわ。けどな、そいつは所詮、僕の所有物や。いつまでもその綺麗な羽の下に隠しきれると思わんことやな」
直哉は忌々しげに背を向け、部屋を去っていった。