禪院家の落ちこぼれシリーズ 【R18】クロスオーバー
第8章 口下手な彼は彼女と暮らしたい 【鬼滅の刃 冨岡義勇】
数日後、いのりは、見たこともない天井を見上げていた。
清潔なシーツ、微かに香る薬草の匂い。
禪院家の、あの吐き気を催すような呪力の気配がどこにもない。
「……ここは、どこ……?」
「おや、目が覚めましたか」
柔らかな声に顔を向けると、蝶のような羽織を纏った美しい女性――しのぶが微笑んでいた。
「……あなたは……私、直哉さんに……」
「ナオヤ? いえ、ここにはそんな人はいませんよ。あなたは道端で倒れていたところを、ある『無愛想な男』に拾われたんです」
しのぶが薬湯を差し出した、その時。
襖が音もなく開き、一人の男が入ってきた。
「体調はどうだ」
感情の読み取れない青い瞳。
いのりは、その男――義勇と目が合った瞬間、静謐で冷たい、けれど清らかな水のような気配に、思わず息を呑んだ。
「……冨岡さん。ノックくらいしたらどうなんです?」
「したつもりだ」
「聞こえませんでしたよ。……ほら、彼女が怯えているじゃないですか」
しのぶの言葉に、義勇は足を止め、じっといのりを見つめた。
いのりは震える手で布団を握りしめる。
呪力の少ない自分を、ゴミのように扱った禪院家。
けれど、目の前の男の瞳には、蔑みも、歪んだ欲もなかった。
「……あな、たが……助けてくれたの?」
蚊の鳴くような声で問ういのりに、義勇は少しの間を置いてから、短く答えた。
「……運んだだけだ。助けたのは、そこにいる胡蝶だ」
その不器用な言葉に、いのりの目から、堰を切ったように涙が溢れ出した。
「……少し落ち着きましたか? 貴女の身に起きたことを、話せる範囲で教えてください」
しのぶが優しく問いかけると、いのりは震える唇を噛み締めながら、絞り出すように答えた。
「私は……禪院の家にいました。そこでは呪力がない私は、直哉さんに……あんな風に、毎日犯されるしかなくて。あの日も、手酷く抱かれた後に光に包まれて……気づいたらここにいたんです」
しのぶは隣に座る義勇と視線を交わしたが、二人とも困惑を隠せなかった。
「ゼンイン? ジュリョク? ……すみません、何一つ聞き覚えがない言葉です。ジュリョクというのも、どこかの地方での固有の呼び名ですか?」