禪院家の落ちこぼれシリーズ 【R18】クロスオーバー
第8章 口下手な彼は彼女と暮らしたい 【鬼滅の刃 冨岡義勇】
いのりは改めて部屋を見渡すと、電球はなく行燈の火が揺れ、二人が纏っているのは見たこともない古風な隊服だった。
「………今は西暦何年なんですか? 」
「セイレキ? 今は大正時代ですよ」
しのぶの返答に、いのりの心臓が大きく跳ねた。
「大正……? 嘘……。だって、私……。ここは、禪院家じゃないの? 術式も、呪いも……」
「さっきから話が噛み合いませんね。今、この国を脅かしているのは『鬼』です。貴女の言うそれは、血鬼術のことかしら?」
しのぶの問いに、いのりは力なく首を振った。
話せば話すほど、自分がいた世界とこの場所が、地続きではないことを突きつけられていく。
「……冨岡さん。どうやら彼女、ただの迷子ではないようですよ」
ずっと黙っていた義勇が、重い腰を上げていのりの枕元へ歩み寄った。
彼は感情の読めない瞳でいのりを見つめ、静かに、けれど断定するように告げた。
「……ここには、そのナオヤという男はいない」
「え……?」
「お前を道具として扱う者も、ここにはいない。……だから、安心しろ」
突き放すような口調だったが、その言葉には不思議なほど嘘がなかった。
いのりは、あの吐き気を催すような呪力の気配が一切ないことに気づき、頬を伝う涙を止めることができなかった。
「……というわけです。ここは『鬼殺隊』という組織の療養施設。外には人を喰らう鬼がいますが、ここなら安全ですよ」
しのぶの説明を終え、いのりは呆然としながらも頷いた。
横では義勇が、置物のように黙って二人のやり取りを見守っている。
「行く当てがないのなら、体が癒えるまでここでゆっくり休みなさい。冨岡さんも、そう言いたいんですよね?」
「……ああ。騒がしい場所だが、ここなら安全だ」
義勇の無愛想な言葉に、しのぶは呆れたように肩をすくめた。
「もう。……とにかく、何も心配いりません。貴女を傷つける者は、ここには一人もいませんから」
その温かさに、いのりの瞳にまた涙が滲んだ。