第2章 現代最強は彼女を手放さない 【呪術廻戦 五条悟】
高専の医務室。
硝子の処置が終わり、いのりが眠りについた後も、五条はその場を動けなかった。
目隠しを外し、無防備な彼女の寝顔を見つめる。
「……参ったな。こんなの、予定にないんだけど」
独り言が、静かな部屋に落ちた。
可愛いとは思っていた。
手のかかる子ほど愛おしい、その程度の認識だったはずだった。
けれど、彼女が傷ついた瞬間に感じたあの「世界が色を失う感覚」は、教師が教え子に抱くそれとは、決定的に種類が違っていた。
「……っ……ん……」
いのりが微かに指先を動かし、目を覚ました。
視界が合った瞬間、彼女は申し訳なさそうに視線を彷徨わせた。
「先生、私……。せっかく、鍛えてもらったのに。直哉に言われた通り、やっぱり私は……」
「——その名前を、呼ばないで」
五条が遮った声は、自分でも驚くほど低く、震えていた。
驚いたいのりが顔を上げると、そこには今まで見たこともないような、必死な形相の五条がいた。
「あいつの名前を出すのも、自分を卑下するのも、全部禁止。……分かってないでしょ、僕がどれだけ、君を失うのが怖かったか」
五条はいのりの手を握りしめ、そのまま自分の額を彼女の手の甲に押し当てた。
「可愛い教え子を可愛がってるつもりだった。でも、違ったんだよ。……僕は、君がいない世界で生きていく自信が、もう一秒もない」
最強の男が、初めて見せた脆弱な姿だった。
いのりは戸惑いながらも、震える五条の手を優しく握り返した。
「……先生、そんな顔しないで……。私、生きてるから……ここに、いるから……」
「……逃がさないよ、もう」
五条は顔を上げると、潤んだ瞳で彼女を深く見つめた。
その視線は、もはや教師のものではなく、一人の女を渇望する男のそれだった。
「君を傷つけるものすべて、僕がこの手で消してあげる。……だから、君の心の中にあるあいつの影も、僕が全部塗りつぶしてあげるから。……いいよね?」
それは、あまりにも重く、甘く、逃げ場のない愛の告白だった。
いのりは、五条の瞳の中に宿る狂おしいほどの独占欲に触れ、初めて自分が「守られる対象」ではなく、「愛される女」として彼に刻まれたことを悟ったのだった。