第1章 君を追いかける 相手 :相澤消太
駐車場に停められた大型バイク。相澤は自分のヘルメットを🌸に被せ、あご紐を丁寧に締める。
「……しっかり掴まってろ」
その背中にしがみつくと、エンジンの鼓動が🌸の体にも伝わってきた。海沿いの道を走る風は少し冷たかったけれど、前を走る彼の背中があまりにも温かくて、🌸の胸の奥の澱みはいつの間にか消え去っていた。
家に着き、玄関の鍵を開け部屋に入った瞬間に、相澤は🌸を振り返った。
まだ照明もつけていない、夕闇の混じるリビング。
相澤はコートのポケットから、小さな、けれど重みのあるベルベットの箱を取り出した。
「……本当は、旅行先の綺麗な景色の中で渡すつもりだった」
箱が開かれると、室内の僅かな光を反射して、一粒のダイヤが美しく輝いた。
「仕事優先の俺だ。これからも今日みたいに、お前を泣かせることがあるかもしれない。その度に俺は後悔し、今日みたいに無様に、お前を追いかけるだろう」
相澤は🌸の左手をとり、震える指先でその指輪を見つめた。
「だが、もうお前のいない未来を想像できない……🌸、俺と同じ苗字になってくれないか。一生をかけて、お前を守らせてほしい」
「消太くん……っ」
🌸が返事の代わりに彼に飛び込むと、相澤は折れそうなほど強く彼女を抱きしめた。
「……返事は?」と耳元で掠れた声が聞こえる。
「……はい。私も、ずっと隣にいたいです」
一周年記念の旅行は台無しになったけれど。
薬指に灯った冷たい銀色の輪と、首筋に感じる彼の熱い体温が、何よりも確かな「愛」の証明だった。
「……二度と、あんな顔でいなくなるな。死ぬかと思った」
そうこぼした相澤の顔は、ようやくいつもの、けれど少しだけ甘えたような、彼女だけの「消太くん」に戻っていた。