第8章 5月
帰り道。
大輝は、ずっと無口だった。
歩幅も合わない。
声をかけても、返事は短い。
「……今日、うち来る?」
少し迷ってから聞くと、
「……行く」
それだけ返ってきた。
玄関のドアが閉まった瞬間、空気が変わった。
背中が壁に当たる。
「……っ」
深く、唇が重なる。
「……なに、どうしたの?」
答えは、すぐに返ってきた。
「お前が悪い」
低く、抑えた声。
「俺以外の男に、あんなふうに優しくすんな」
一瞬、言葉に詰まる。
「……嫉妬?」
そう言うと、大輝は視線を逸らした。
「……当たり前だろ」
少し間を置いて、絞り出すみたいに続ける。
「狂うほど、好きなんだ」
その一言で、胸の奥が熱くなった。
言葉の重さに、息を吸うのを忘れそうになる。
「……可愛いとこあるね」
冗談めかして言うと、大輝は小さく舌打ちした。
「うるせぇ」
そう言いながら、ふいに身体が浮いた。
「ちょ……!」
「暴れるな」
そのまま運ばれていく。
この先どうなるかは――
今は、言葉にしなくても分かっていた。