第4章 『やくそく』
「私はを高専に連れて帰る。お前はどうする、五条」
そう言って立ち上がった硝子は、近くに待機していた補助監督へ声をかけ、少し離れた場所に車を付けるよう指示を出した。
「ん〜……僕はもう少し残ろうかな」
「そうか」
には硝子が着いていればひとまず安心だ。
やることも残ってるし、それが終わったら恵の仕事ぶりでも眺めてから帰るとしよう。
「、立てる?」
そっと手を差し伸べると、は一瞬だけその手を見つめ、それから遅れて指先を重ねて支えを借りるように上半身を起こした。
「……ごめんなさい」
独り言みたいな、ほとんど消え入りそうな声だった。
その一言に、僕の動きがほんの一瞬だけ止まる。
何に対する謝罪なのか。
無茶をしたことか。
心配をかけたことか。
それとも——生き残ったことか。
「何が?」
軽い口調で問い返すと、は一瞬だけ僕を見上げて唇を噛み、視線を伏せた。
「……迷惑、かけました」
「はぁ〜〜……」
立ち上がりきれないの身体を、軽く引き寄せて支える。
骨ばった肩、細い背中。
さっき抱き上げた時にも思ったけれど、やっぱり想像以上に軽くて胸の奥がざわついた。
「全部ひとりでどうこうしようなんて無理でしょ。は考えすぎ」
「……でも」
「それ禁止」
被せるように言うと、は小さく目を瞬かせる。
「呪霊祓って五体満足。今はそれだけで十分」
そう言って額に軽く指を弾くとはきゅっと目を閉じ、少し遅れて額をさすった。
「説教は帰ってからね」
冗談めかした口調に、ほんの一瞬だけ、の口元が緩む。
「甘いな」
ヒールで砂利を踏みしめる硝子は、僕を見下ろして呆れたように息を吐いた。
「何言ってんの硝子。僕が優しいのなんて、いつものことでしょ」
「高専に着いたら検査だ。逃げるなよ、」
「……はい」
「無視すんなよ」
硝子の声にの肩が僅かに揺れたが、は顔は上げず、返事だけを落とすように答える。
その様子を見て、硝子はそれ以上何も言わなかった。