第4章 『やくそく』
地面に膝を着く女の額に汗が滲み、視線は逃げるように足元へ落ちる。
「……5時間で10件…。七海さんとほぼ同じペースですね」
「5、6件って、言ってなかった?」
無意識に落とした声に、女は大袈裟なほど肩を震わせる。
そして身体ごと、怯えたように縮こまった。
「……それと、ここに来る直前の任務ですが……」
タブレットを操作していた補助監督が、言いづらそうに言葉を続けた。
僕が視線を向けると、彼は一度小さく息を吸い、覚悟を決めたように口を開く。
「恐らく一級案件です。どうして手続きが通ったのか……」
一級。
いつもなら、上の連中の嫌がらせだと切り捨てて終わる。
だが、今回ばかりは違う。
上には、への扱いには細心の注意を払うよう、何度も釘を刺している。
それに正式な手続きを踏んでないとはいえ、僕が娘のように可愛がっているのは上層部の連中も知っているだろう。
気が変わって僕に牙を向いたってことも考えられるけど────…いや、ないな。
「は二級なんだけど。どういうつもり」
「……しっ、知らなくて!」
「それで許されると思ってんの?」
被せるようにそう告げると、女は唇を噛み、言葉を探すように視線を泳がせる。
術師は常に命懸けだ。
それを"知らなかった"で済むと、コイツは本気で思っているのだろうか。
「わざと受けた任務が手違いで通ったんだろうね」
「っ、」
その一言で、女の肩がびくりと跳ねた。
女は反論しようと口を開きかけたけれど、僕の目を見た瞬間、全てを諦めたみたいに伏せられる。
「……大変、申し訳ございませんでした」
「君が謝る事じゃないでしょ」
深く頭を下げる男の補助監督へ、淡々と言い放つ。
慰めているわけじゃない。ただ、事実を告げているだけだ。
——とはいえ、お咎めなしというのも納得がいかない。
この女の処遇をどうするか……そう考えかけた、その時。
「家入さん、現着です…!!」
張り詰めていた空気を割くように、新しい声音が響いた。