第3章 交錯する想い
…私はただ、拾われただけなのに。
それなのに、育ててくれて、心配してくれて、さらには子だと呼んでくれた。
優しさに押しつぶされるように、胸の奥がきゅっと苦しくなる。
「僕はお前を拾っただけで、血の繋がりなんて一滴もない」
そう言いながら、五条さんは肩をすくめる。
その声音はいつも通りで軽いのに、不思議と真剣だった。
「でもさ」
一歩距離を詰められ、いつもより少し低い位置から、視線が絡む。
「お前が泣いてると落ち着かないし、笑ってる顔を見ると、安心するんだよね」
包帯を外した目元が、ほんの少しだけ細められた。
笑っているのにどこか真剣で、落ち着かない、と言われたばかりなのに、目の縁に涙が滲み始める。
「僕が親になるのは、嫌?」
冗談みたいな問いかけ。
…五条さんはズルい。
答えなんて、ひとつに決まってるのに。
「……そんなこと、ない」
答えてしまえば、胸の奥で固まっていたものが少しずつ溶けるように、目の縁に貯めていたものが静かに頬を伝った。
「私は、五条さんの子で居られて……嬉しい」
言葉にした瞬間、喉がきゅっと締まる。
実の両親は死んだ。私の目の前で。
2人を忘れることなんて一生ありえない。
けれど、私は今、この人の娘で居たいと心から思ってしまっている。
「ハハッ、トーゼン」
一瞬だけ間を開けて、五条さんはいつもの軽い笑い声を響かせた。
「ま、嫌って言われたら伊地知に当たり散らかすところだったけど!」
冗談めかしてそう言いながら、五条さんは私の頭をくしゃっと撫でる。
少し乱暴で、それなのに温かい、いつもの手。
「さっ、風呂入ろ〜っと」
脱衣所へ向かうその背中を見送りながら、私は思う。
血の繋がりなんてなくても、五条さんは私の居場所であろうとしてくれている。
今は、その事実だけを胸に涙を拭った。