第19章 いつか、また
「ナマエは任せろ。アンタは自分で何とかしなさいよ」
私の肩にガシッと腕を回し、不敵な笑みで親指を立てた野薔薇ちゃんは、私の背後にいる恵くんに向かってそう言い放った。
「………動き辛えんだよ、アレ」
その声に振り返ると、案の定、恵くんは予想通りの言い訳を口にして露骨に嫌そうな顔をしていた。
そんな不満げな様子を見た野薔薇ちゃんは、何か悪巧みでも思いついたかのように、含みを持った声音で「ふぅん……?」と声を漏らした。
「浴衣姿の女の隣に普段着で居ようなんて、図々しい男ね。その調子だと、浅草でこの子、私と真希さんの間で過ごすことになるわよ!」
「……………」
野薔薇ちゃんの脅し文句に、恵くんは盛大に顔を顰め、反論の言葉も見つからない様子で苦虫を噛み潰したように黙り込んでしまった。
それを見た野薔薇ちゃんは満足気に口角を歪めると、「さっ、行きましょ!」と私の腕を引き、部屋の前から堂々と立ち去った。
「ねぇ、野薔薇ちゃん。浴衣で浅草まで歩いたら、着崩れしない?」
「アンタ何言ってんの?タクシー使うに決まってんでしょ」
「浅草まで……?」
「ええ」
当然でしょ、と言いたげな野薔薇ちゃんに、歩きながら笑みがこぼれてしまう。
高専付近から浅草まで行くとなると、膨大な金額になると思うのだけれど、それは承知の上なのだろうか。
「お金は?」
「はあ?そんなの、祭りの発案者持ちに決まってんでしょ」
「………なるほど」
発案者。つまりは五条さん持ち。
だからこそ、タクシーなんて高級で快適な移動手段を、何のためらいもなく思いついたわけだ。
「アンタからも頼んでよね」
「えぇ〜……?タクシー代くらい、別に自分で払えるよ」
廊下を進む野薔薇ちゃんを見上げて何気なくそう返せば、野薔薇ちゃんはハッと何かに気づいたようにピタリと足を止める。
そして「……そういえば、アンタも高給取りだったわね」と、少しだけ羨ましそうに、そして悔しそうな顔をして私を睨んだ。