第19章 いつか、また
通話を切って、気まずい沈黙の中でバッグに携帯を戻す。
と同時に、部屋の扉が今にも壊れそうな勢いで激しくノックされ、ベッドの上の恵くんは深い深いため息を吐いた。
声を聞かなくても分かる。……扉の向こうにいるのは、野薔薇ちゃんだ。
「来るの早すぎない……?」
「部屋にいないから、どうせ此処だと思って近くまで来てたのよ」
「んん……」
扉を開けて開口一番。
おずおずと軽く文句を言ってみたものの、あらかじめ用意していたのかと疑ってしまうほど即答されてしまって完全に言葉を失った。
私の行動原理が筒抜けなようで、恥ずかしくて複雑な気持ちだ。
「伏黒。この子、借りるから」
「…………好きにしろ」
「……そう言うなら、少しは説得力ある表情してくれないかしら」
野薔薇ちゃんにガシッと腕を引かれ、有無を言わさず廊下へと連れ出される。
背後に立った恵くんがどんな顔をしているのかは、見なくても何となく想像がついてしまった。
「ね、ねえ、野薔薇ちゃん。何するの?集合まで、もう時間ないよ」
「何って、浴衣よ。着付け手伝って」
「浴衣……」
どこか懐かしい響きに、つい唖然として言葉を反芻してしまう。
浴衣。
着物より薄手の生地で作られたそれは、昔、故郷で室内着として着用していたものだ。
「まさかアンタたち、浅草の盛大な秋祭りに、二人揃ってスウェットにデニムで行くつもりだったわけ?」
「え……、うん。ダメなの……?」
「ダメに決まってんでしょ!!芸能人のお忍びデートかよ」
けっ、と盛大に喉を鳴らした野薔薇ちゃんは、呆れたように少し考え込んだ後、「まさか一着も持ってないわけじゃないわよね?」と、私と部屋の奥の恵くんへ鋭い問いを投げかける。
「五条さんから貰ったものなら、ある……よね?」
「……まあ、一応持ってきてはいる」
「何よ、二人とも持ってるんじゃない」
今までお祭りなんて行く機会がなかったから、浴衣が祭りという特別なイベントで使われるものだなんて、私は知らなかった。
恵くんは知っていたのだろうか。
……もし知っていたとしても、恵くんのことだからきっと「動きづらい」と言って、自分からは絶対に袖を通してくれなさそうだけど。