第15章 成就の証※
しぱしぱと目を瞬かせた恵くんは、私が眠っていた場所に目を落とし、そこが空っぽなことを確認したあと落胆したように呟いた。
「……ナマエは、」
「黙りなさい。アンタは今、被疑者───いや、れっきとした犯罪者なんだから」
「何のだよ」
向けられた野薔薇ちゃんの人差し指に眉を寄せながら、恵くんはプランケットを払い除けて無防備に欠伸を零す。
まだ思考が冴えきっていないのが分かりやすくて、その無防備な仕草さえ愛おしく感じる一方、それを野薔薇ちゃんと共有していることに少しだけ複雑な独占欲が疼いた。
「しらばっくれんな!!!この大量の噛み跡!!!キスマーク!!!声も枯れて、腰砕けてんじゃないのよ!!」
「あぁ…………、」
恵くんに向けられていた指先が、床に座り込む私をビシッと指し示す。
すると恵くんの視線がゆっくりと私へ移り、優しい眼差しに射抜かれて、それだけでさっきまでの仄暗い感情はどこかへ霧散してしまう。
「……何とかしろっつってたじゃねえか」
「ええ、言ったわよ。言ったけど!!!コレしか無かったわけ?!」
「何とかなってんだから、別にいいだろ」
「コレしか無かったのかって聞いてんだろ!!」
わざとらしく視線を逸らす恵くんを、野薔薇ちゃんは逃がさなかった。
跳ねた髪ごと頭を鷲掴んで、執拗に説明を求める。
私の知らないところで二人が私の件について何やら話し合っていたらしいことは、会話の内容から何となく察せられた。
「……なかった。これでいいか」
「それで納得するわけねぇだろボケ!!!」
「めんどくせぇな……」
「はぁ?!」
がしがしと後頭部の髪を掻きながらベッドを降りた恵くんは、野薔薇ちゃんの隣を抜け、私の元へと真っ直ぐ歩んでくる。
そして当たり前のように私の身体を横抱きにして持ち上げると、丁寧にベッドへと運び戻した。
「水買ってくる。……待ってろ」
「あ……うん、ありがと…」
「げぇ………」
私たちのやり取りを見た野薔薇ちゃんは、甘すぎるスイーツを食べたあとみたいな表情で、部屋から出ていく恵くんの背中を見送った。