第15章 成就の証※
余計なことを口走ってしまった。
釘崎の暴走は制した癖に、俺が追い詰めて泣かせてしまっては意味がない。
(……今日は、帰った方がいいな)
そう判断し、ナマエに別れの声をかけようとした時だった。
『────ナマエにはね、素直になるのが一番だよ』
いつか五条さんに言われた言葉を思い出して、喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。
ナマエは、人に頼られることを生き甲斐として心に飼っている。
それ故に、真正面から頼み事───否、"願い事"をされた時、絶対に拒絶することが出来ない。
あの時は五条さんのニヤケ面と独占欲の強さに呆れていたが、今は違う。
俺よりもあの人の方が、何倍も、何十倍も──ナマエという人間の"扱い"を理解しているという事実を、残酷に突きつけられた。
「…………顔、見せてくれ」
そして俺は、五条さんに倣うように。
自分の欲を満たすため、ナマエに"願い事"と言う名の強要をした。
「……引き止めない。直ぐに扉を閉めてもいいから、…………頼む、」
断れない状況を作って追い詰めるのは、本意ではなかった。
それでも、プライドという塗装が剥がれかけた心が、ナマエがそこに居るという事実に縋りついてしまう。
「───……一人に、しないでくれ」
結局、五条さんの言葉に乗せられて、ナマエに縋ることでしか救う手立てをみいだせない。
そんな自分が情けなくて、その場で俯いた時。
───カチャッ
と。鍵の開く音がして、反射的に顔を上げた。
続けてドアノブが捻られる音と共に、固く閉じていたはずの扉に隙間が生まれた。
「っ……ナマエ」
「……うん」
部屋の中。暗闇の奥から顔を出したのは、痛々しいほどに目を泣き腫らしたナマエだった。
やっと顔を見られた。やっと、その声が聞けた。
……けれど、込み上げてくる感情よりも先に、口を衝いて出たのは。
「…………ごめん」
赦しを乞うような謝罪と共に、俺は小さく冷え切ったナマエの身体を強く抱き締めた。