第8章 百鬼夜行の、その最中※
頬に触れた腕に導かれるように。
赤く染まったその顔へゆっくりと距離を詰めれば、長い睫毛が震えながら伏せられた。
「……っん、」
重なり合った唇から伝わる柔らかな弾力。
それだけで、冷え切っていた心臓が芯からじわりと熱を帯びる。
「……んっ…!…ちゅ、」
「…っ、……はっ、」
深く舌を差し込めば、水音を立てて熱い唾液が絡まり合う。
行き場を失っていたナマエの腕が俺の首へと回り、縋り付くような小さな力で引き寄せられた。
そのまま、後頭部の髪を緩く撫でられ、
まるで子供を慰めるようなその慈しみの仕草に、笑いそうになった。
「っ……、」
唇を合わせたまま、寝間着越しに片方の胸を掌で深く掬い上げれば、ナマエの身体が微かに強張る。
掌に伝わったのは、体温を直に感じるような柔らかさ。
…そこにあると思っていた、肌を隔てる硬いワイヤーの感触が、どこにもない。
「………付けてねぇのか」
「…寝る時は……苦しいから、外してるの」
唇を解放してやれば、ナマエは切なげに肩を上下させ、荒い息とともに潤んだ瞳で答えを零す。
風呂上がり、こいつはいつも通りの無防備な習慣で服を纏っただけで、俺を煽る意図なんて微塵もなかったんだろう。
───だとしても。
それが今の俺にとって、どれほど致命的な誘惑になるのか。
それを分かっていないのだとしたら、あまりに無自覚が過ぎる。