第8章 百鬼夜行の、その最中※
膝の上に乗ったナマエを抱き上げて、一人用にしては大きすぎるベッドへ寝かせる。
そして流れるように上へ覆い被されば、ナマエの喉が期待に小さく鳴ったのが分かった。
「………いいんだな」
ここでこれ以上、一線を越えて踏み込めば、もう自分を制御できる自信なんて微塵もない。
止めろと拒絶されようが、痛みに泣き喚かれようが、獣と化した本能はきっと止まってはくれないだろう。
そうなった時、こいつに嫌われないという確証を、ほんの僅かでもいいから繋ぎ止めておきたかった。
「……いいよ。恵くんに、壊されたいの」
「…、」
「嫌いになんて、ならないから」
いつだってこいつは、俺が喉から手が出るほど欲しかった言葉を、予想もしない角度から投げつけてくる。
それが嘘だったとしても、こちらには本当だと錯覚させるように。
「……好きだ」
「うん、私も好き」
「他のやつには、渡したくねえ」
「私もだよ」
ナマエは、俺の醜いエゴをすべて肯定する。
何をしようが、何を言われようが。
俺を心から信じているのだと、その瞳で説得するように。
「大丈夫だよ。……あの日からずっと、私は恵くんのものでしょ?」
下から伸びてきた柔らかな指先が、俺の頬を熱くなぞる。
慈しむようにすり寄せてくるその感触があまりに心地よくて、無意識に視界が熱く細まった。
「…ああ、そうだったな」
自嘲気味に、けれど愛おしさに負けて口角が緩む。
ああ、幸せだ、と。
生まれて初めて、心の底からそう思った。
自分という存在をまるごと受け入れ、支えようとしてくれる人間がいて、あまつさえ俺だけを求めてくれている。
両親が霧のように消えたあの日も、津美紀が呪いに蝕まれた夜も、俺の手には何も残らなかった。
ガキの頃から肌に染み付いていた「いつか失う」という漠然とした不安が、ナマエの体温によって溶かされていく。
「…俺も、お前だけのモンだ」
「っ………う、ん」
さっきまで魔性のように俺を煽り、翻弄していた表情はどこへやら。
一転して弾かれたように目を見開き、頬を染めて小さく頷くナマエは────今まで見てきたどの表情よりも、愛らしかった。