第8章 百鬼夜行の、その最中※
密室に漂う甘い空気の中、俺の問いに瞳を揺らしたナマエは、小さく首を傾げて言った。
「…?調べた」
「しっ、……はあ?!」
分からないものを、分からないままにする性格じゃない。
理解していた。
だが、まさかそっち方面まで自力で理解を深めてくるとは思わなかった。
「五ヶ月も構ってくれないんだもん。気になったから、調べたの」
調べた。
念を押すように繰り返されたその言葉が、俺の脳内に最悪な想像を撒き散らす。
それはつまり、こいつの指先がスマホを叩き、
あの日俺たちが重ねた行為の先にある続きを、独りで検索画面に入力したということか。
……どこまで見た。何を見た。どこまで汚された。
もしも、得体の知れないサイトで、知らない男のブツをその目に焼き付けたのだとしたら。
そう考えただけで、今すぐその端末を粉々に叩き壊してしまいたい衝動に駆られる。
「……調べたって、お前、どこまで───」
「恵くんも知ってるってことは、調べたことあるんでしょ?」
「それは、」
「…それは?」
年頃の男は大抵興味があんだろ。と、喉まで出かかった反論は行き場を失う。
というか、質問を質問で返すな。
そう突き放して叱ってやりたいのに、今この状況で、こいつの口から生々しい情事の内容を聞かされるのはダメだ。
……無理に保ってきた理性と欲望の均衡が、終わる。
「…答えるから、いったん降りろ」
「べつに、無理に答えなくていいよ」
「はあ?」
なんだ、それ。
こいつは一体、どこまで俺の理性を振り回せば気が済むんだ。
───というか、今のコイツの、絶妙に逃げ道を塞いでくる感じ。
自分の中で答えが出ている質問を易々と投げ、
俺が答えないと分かっていたように、次の台詞まで用意している、この妙に慣れた嫌な感覚。
"あの人"に───似てねえか。
「ここ、触ると気持ちいいんだって」
「……待て、やらなくていい」
下着とボトムスに無理やり抑え込まれたそれは、限界まで熱を孕み、今にもはち切れてしまいそうなほどに痛い。
そんな俺の窮状をすべて分かっているのか、それとも、いつも通り残酷なまでの無自覚か。
ナマエは、その膨らみの輪郭をなぞるように、小さく柔らかな手のひらをゆっくりと滑らせた。