第7章 愛の形
────2017年 8月。
中学最後の夏休みが始まり、私と恵くんは任務の合間を縫って、呪術高専の先輩たちとの合同訓練に参加することになった。
高専生──とくに一年生の先輩方にはとてもお世話になっている。
五条さんの受け持ちだから、と融通を聞かせてくれたらしい。
それと、前に五条さんから聞いていた"面白い子"も紹介してもらった。
乙骨先輩。
第一印象は、困ったように微笑む穏やかな人。
物腰も柔らかく、強い呪力を持っているなんて、言われなければ気づかないほどだった。
けれどその背後には、幼い頃に婚約した女の子が"呪い"となって取り憑いているという。
私はまだその姿を見たことがないけれど、
死してなお愛する人を縛り続ける"特級過呪怨霊"としての、重く、深い愛の形を想像するだけで、胸の奥がざわついた。
約束を守るための想いが呪いへと変わる───その事実にほんの少しだけ圧倒された感覚は、まだ記憶に新しい。
「ナマエ。真希さんが呼んでる」
「わっ……!」
木陰で腰を落とし、ぼうっと夏空を見上げながら乙骨先輩の境遇に思いを馳せていた私は、不意に視界に割り込んできた顔に情けない声をあげてしまった。
「なんでそんなビビってんだ」
「ご、ごめん…ぼーっとしてて」
慌てて立ち上がり、ズボンについた砂を払ってから、取り繕うように笑ってみせる。
すると恵くんが至近距離まで顔を覗き込んできて、私の心臓が一気に跳ね上がった。
「な、なに…?」
「いや、別に」
そう言って、恵くんはくしゃりと雑に私の髪を撫でる。
何気ない仕草なのに、触れたところから熱が灯る気がして無意識に視線が落ちた。
「先行ってる。準備出来たら来いよ」
「あっ……うん」
そう言い残した恵くんは私に背を向け、グラウンドの中央で待つ真希さんの方へと歩いていった。