第5章 オーバーライト※
思考は真っ白なまま、
ただ目の前の恵くんが愛おしくて、私は無意識に手を伸ばす。
穢れることへの恐怖なんて、もう、どこにもなかった。
「めぐみくん…───」
さっきの呼び掛けに答えるように名前を呼んで、その頬へ指を滑らせようとした時だった。
─── キーンコーンカーンコーン
───── キーンコーンカーンコーン
静寂を切り裂くように、無機質な予鈴の音が保健室に鳴り響いた。
「っ、」
恵くんの肩がピクリと跳ね、頬へ伸ばしかけていた私の指先は宙で止まる。
現実が、甘い空気の中へ波のように押し寄せてきた。
「……ぁ、」
途端に乱れた格好のままの自分に気づいて、急激な気恥ずかしさが込み上げてくる。
伸ばした手を引き、顕になった胸元を隠すように腕を組むと、絡んでいた視線はどちらからともなく逸らされた。
「……、……クソ、」
恵くんは低く毒づいたあと、ゆっくりと私から手を離し、乱れた下着と制服を、震える手つきで整えてくれた。
さっきまでの強引さが嘘のように優しくて、余計に胸が苦しくなる。
「…………授業、戻る」
立ち上がった恵くんの顔は首まで赤く染まり、瞳を濁らせてた熱は消え去っているように見えた。
「……飯、ちゃんと食ってから戻れよ」
「……うん、」
そう言った恵くんは私の頭をそっと撫でると、踵を返し、一度も振り返ることなくカーテンの向こうへ消えた。
一人取り残されたベッドの上で、私はまだ恵くんの指が触れていた場所の熱さを、痺れるような感覚と共に思い出していた。