第5章 オーバーライト※
指先がナマエの無防備な腹の上に触れた。
吸い付くような肌の柔らかさが、掌を通してダイレクトに伝わってくる。
「ん……っ」
──直後、触れた場所から伝わってきた微かな震えに、指先が凍りついたように止まった。
(……怯えてんのか。今度は、俺に)
脳裏にこびりついたあの男の残像が、いまの自分と重なって反吐が出る。
守りたかったはずのこの柔らかな肌を、俺はいま、自分の傲慢な独占欲で塗りつぶそうとしている。
震える拳に力を込め、奥歯を噛みしめた。
引き返すべきだ。
手を離して、謝って、いつも通りでいるのが正しいはずだと、分かっているのに。
「…はっ、ぁ」
熱を含んだ甘い吐息が耳元を掠めるたびに、あの男もこれを聞いたのかと想像して、腸が煮えくりかえるような殺意がせり上がった。
俺が駆けつけた時、アイツの手は確かにナマエの肌を這っていた。
でも本当は、もっと奥まで触れられていたんじゃないか。
俺の知らない"傷"が、まだどこかに刻まれているんじゃないか。
あの時。五条さんに言われた瞬間、迷わず駆け出していれば。
そんな行き場のない後悔が、毒のように喉の奥にせり上がってくる。
……この行為は、俺の自己満足だ。
どんな言い訳を重ねても、所詮はナマエの中に残る男の影を消し去りたいという、勝手な我欲を無抵抗のナマエにぶつけているだけ。
これ以上進めば、俺は二度とナマエの笑顔を見られなくなる。
……それだけは、死んでも嫌だ。
「……?」
重い鉛を動かすように手を止め、ナマエから身体を離す。
少し赤い頬で乱れた息を吐くナマエは、潤んだ瞳を細く開き、俺の顔を凝視していた。
その視線すら、次の俺の暴挙を予感し、怯えているように見えて──耐え難い罪悪感が胸を抉る。
「…すまん。俺は戻るから、飯はちゃんと食え」
一刻も早く、俺という脅威からナマエを遠ざけてやらなければ。
そう思って弾かれるようにベッドを降り、背を向けた、その時。
「っ、」
ギッ、とスプリングが悲鳴を上げる音。
同時に、俺の身体が後ろから思い切り引かれ、乱暴にベッドへと引き戻された。