第5章 オーバーライト※
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こいつの前でだけは、まともで誠実な、所謂 優しい人間で居たかった。
でも今の俺の脳内は、あの男の痕跡を上書きすることだけに支配されている。
ナマエの肌を汚したあの不浄な手を、こいつを泣かせる悍ましい記憶を、一刻も早く、根こそぎ焼き尽くしてしまいたい。
「………嫌だったら言え。…すぐ、止める」
「え…ぁ、」
それは慈悲か、それとも俺の中のなけなしの理性が上げた断末魔か。
ナマエの頬を濡らす涙が乾ききる前に、俺はその細い身体を、逃げ場を奪うようにベッドへ縫いつけた。
「めぐみ、くん…?」
覗くようにナマエを見上げると、何をするの、とでも言いたげな表情で俺を見つめていた。
心のどこかではわかっているくせに。
直ぐに「止めて」と叫ばないあたりが、残酷なほどにナマエらしい。
「っ…、恵くん、待っ、」
制止の声を飲み込むように、俺はナマエの体操着をゆっくりと捲り上げ、胸の下で止めた。
しんとした室内に、白い肌が鮮烈に露わになる。
その瞬間、俺はナマエの顔を真っ向から見ることができなくなった。
傷ついた表情で俺を見つめる純粋な瞳を直視できるほど、俺は、強くない。