第5章 オーバーライト※
周囲の騒ぎとは裏腹に、当の本人は涼しい顔のまま。
視線は真っ直ぐ前を向いていて、歩調も乱れていない。
まるで最初からこうするつもりだったみたいに、迷いなく私を抱えたまま進んでいく。
(……騒がれるの、嫌いなはずなのに)
体育館中の視線を一身に浴びている。
それなのに、恵くんからは嫌そうな気配が一切伝わってこなかった。
「………珍しいね。こういうの、」
「…別に。お前、ほっといたら鼻血撒き散らしながら保健室行きそうだし」
「……ティッシュ貰ったし、そんなことしないよ」
口を尖らせながら抗議するように言うと、恵くんは小さく鼻で笑って、それ以上取り合わず視線を前に戻した。
体育館の天井がゆっくりと流れていく。
自分の鼓動が恵くんの胸越しに伝わってしまいそうで、変に落ち着かない。
(…………近い、)
肩口に当たる胸板の硬さも、腕に回された指の温度も、全部がはっきり分かる距離だ。
それに加えて触れ合う肌から直接伝わってくる体温のせいか、さっきまでの鈍い痛みよりも、顔に集まる熱の方が気になってしまう。
「お、落とさないでね……」
「落とさねぇよ」
短く言い捨てる声は相変わらず素っ気ない。
それなのに足運びは妙に慎重で、段差に差し掛かるたび、私の身体をそっと引き寄せる。
その一瞬の距離の縮まり方が なんだかくすぐったくて、私は逃げ場を探すみたいにぎゅっと体育着の袖を掴った。